Yumemiru Danshi wa Genjitsushugisha RAW - chapter (122)
手紙
朝になってハルとヒロから超久しぶりのメッセージが来てる事に気付いた。ざっくり言うとハルからは『無神経なこと言ってごめん』という顔文字やスタンプ一切無しのガチ謝罪文、ヒロもハルに代わって謝ってる内容だった。待って、ヒロは何故? そこはかとなく“彼女に泣き付かれた彼氏感”があるんだけどそーゆー事なの?
坊主頭の根っからの球児がユニフォーム姿で謝る姿を想像するとすげー誠実な感じがするな。野球部の奴って良い奴か悪い奴の両極端なイメージだわ。普通の奴が居ないっつーか。
「──あ! おっはよーさじょっち!」
「おー。はよ、芦田。朝練終わり? ヤベーな」
「いやヤバくはないけど」
昇降口前で芦田に遭遇。朝っぱらからバレー部の『一汗掻いたぜ!』感を見せ付けられると気が引ける。普通に登校して来ただけなのに自分に謎の罪悪感が湧いて来ちゃうんだけど。まるで俺の生活リズムが不健康みたいな。
「昨日はメッセしてなかったねー。部活終わりに通知が何も無いとちょっと寂しかったよー」
「あーっと……偶然忙しかったんだよ。夏川も最近そんな感じだし」
「ふーん……? ──あ!噂をすれば!」
「……!」
芦田の声にドキッとする。この嬉々とした反応……確認しなくても夏川だと判った。昨日は別れるギリギリで気まずくねぇよ感出して別れたけど、改めてフッたフラれた関係を意識してしまうとそう簡単に忘れられそうにない。だからって辿々しくするわけにもいかないから、芦田と同じ感じに接する事にした。
「おっはよー愛ち!抱き着いて良い!?」
「おはよう圭。暑いからやめて」
「おはよ、夏川」
「おは──ぁ………」
夏川の俺に対する気まずさ考えてなかったわ。
ヤバい、目に見えて顔逸らされた。めっちゃ気まずそうなんだけど。や、落ち着け俺……気にすんな、いつも通りにするって決めただろ? 夏川と同じレベルに居ない奴が変に意識してキョドったところでそれは淡い感じのやつじゃなくてただの陰キャラだから。
「……? 2人とも、何かあった?」
「え? い、いや? 何も?」
芦田の鋭さにビビって
吃
ってしまった。何で初手でそこを突けるの? フツー最初は何かおかしい感じしても様子見しないもんかね……。芦田のスゴいとこってコレだよな。感覚で核心に辿り着けちゃうタイプだわ。たぶん金田一の天敵、コイツならチョコレートキャラメルフラペチーノの名にかけて事件解決しちゃいそう。犯人はたぶん貴方☆
「暑いし、さっさと教室行こうぜ」
「もう慣れたよー」
「ヤベーな」
「ヤバくないし」
「……」
視界の端から妙に窺うような視線を感じる。芦田との会話も何だか聴こえてないみたいだし、昨日のアレで夏川も気まずさ感じまくってんだろ。ここはさっさと教室に行くのが吉。断腸の思いで夏川と離れるべし。
「さじょっちもちょっと前まで夕方走ってたんでしょー? 暑い時期が絶好の機会なんだからまた始めりゃ良いじゃん。慣れるよ?」
「や、慣れねーし。何の絶好の機会なんだよ。大体、あん時はそれなりに目的があって走っ──………あ?」
「ほぇ……? 何かさじょっちんとこから落ち───ん!?」
「ぇ……」
「……」
「……」
「……」
……オッケーとにかくヤバい事は分かった。迂闊な真似はやめよう。客観的に状況を整理する。そう、客観的に。
靴箱開けた。なんか落ちた。明らかに何かの手紙。落ちざまに見えた可愛らしいピンクの封蝋シール。やや丸い筆圧の優しい字、『佐城くんへ』。
「おぼぼぼぼ僕にラブレター!」
「落ち着いてさじょっち!僕とかキモい!今時ラブレターとか何か違くない!? きっとこれは誰かがさじょっちを陥れてみんなの笑いものにしようとしてるんだよ!今時ラブレターとか有り得ないもんね!なに勘違いしちゃってんのウケる!」
「お前俺に親でも殺されたの?」
「あっ……!?」
真正面からラブレターの存在を否定された悲しみよりも興奮が
勝
った。ツチノコにでも出くわしたかのような感覚。や、マジで。その辺に木の棒転がってたらつついてたわ。
メンタルという肉を切らせて忘我という名の骨を断つと、口だけは達者でも身動きが取れていない芦田が動き出す前にすかさずソレを回収した。
「──さ。行こうや」
「ちょっ、それ無くないっ……!? 何しれっと懐に仕舞い込んでんの!? めっちゃ気になるんだけど!」
「まぁほら、その、俺宛だし? 重要な文書とお見受けしました、後でしっかり目を通しておきます」
「嬉しいの隠しきれてない!見せてっ、見せてっ」
「待て。いや待つな。見せないから。これ俺宛だからさ、俺しか見ちゃダメなやつなのわかる? 墓まで持ってく所存なの。骨と一緒に埋まるからコレ」
「うぅ〜……!」
ふへへへっ……やっばいニヤける。マジでこれラブレター?人生で初なんだけど。でも確かに芦田の言う通り今時ラブレターとかアレな感じだし、もしかしてこれラブレターじゃない……? いやいや!今だけはネガティブ思考やめようや俺!『放課後屋上に──』的な呼び出しかもしんないじゃん。こーゆー時くらい精一杯浮かれようぜマジ俺パリピ。
「さぁーじょっちぃ〜……」
「や〜め〜ろ〜よー、袖引っ張んな………よ……」
芦田に強く引っ張られる。浮かれた顔のまま後ろに振り向いたところで思わず冷静さを取り戻した。駄々をこねるような芦田、その奥で、何か言いたげに浮かない顔をする夏川の姿。
え、待って。夏川に見られた。昨日あんな事があってお互いあんま良くない方向で意識し合ってんのに、寄りにもよって恋だの付き合うだのそういう話になるかもしんないもん見られた。
いや落ち着け。それとこれとは別の話だろ。俺と夏川はもう“終わってる”んだから。もうそういう関係になり得ない女子に見られたとこで別に何も無ぇだろ。夏川がこれ見てどう思うかとか、そういうこと考えちゃう方が自意識過剰なんだよなきっと。
どっちかっつーと推しアイドル的な人の前で別の人からのラブレター的なもん貰って飛び跳ねるように喜んでんのを見られたのがショック。惚れっぽ過ぎない? 相当な小者じゃん俺。高嶺の花の美少女に群がって揃ってサクッとフラれる烏合の衆の一人的な匂いがするぞ?
……小者上等!
や、だってこれラブレターかもしんないんだよ? もしそうだったら勝ち確じゃね? ステータス的に見ちゃうのは失礼かもだけど、男子高校生的にはちょっとレベル上がる感じする。夏川とか他の優秀な奴に劣等感とか感じなくなって堂々と喋れるようになるかも……。
夏川は言い過ぎたわ。ラブレター貰ったとこで夏川は女神だった。
◆
席に着いてから芦田がうるさい。
『見た? 見た?』の追及が激しい。小声で囁かれたり丸めた紙の切れ端投げ込んで来たり後ろから椅子の底蹴られたり何なのコイツ俺に興味あり過ぎじゃね? あれか?女子特有の恋バナ大好物のやつ発動しちゃった? そもそも何でコイツ内容教えてくれると思ってんの。お前のせいで見れねぇんだよ!
ほら、隣の一ノ瀬さんもすっげぇチラチラ見てくんじゃん!あれ絶対『うるせぇな』って思ってるよ!前ほど迷惑そうな顔じゃないけど、『あの……申し訳ないんですけど、静かにしてくれませんか?』って顔してるよ!ホントごめんね一ノ瀬さん!
「じゃあ、そろそろ席替えしよっか」
「えー!?」
「よっしゃ来たー!」
「やったー!」
ナイス
大槻
ちゃん!
教室内
大歓声!
やっぱできる担任は違うわ。さすが生徒に親しまれる英語教師。思わずタメ口使いたくなるだけあるね。大槻ちゃんそのものが陽キャだからな、こういうイベント大事にしてくれるとこは好きだわ。陰キャに厳しい感じが玉に
瑕
だけどね……陽キャ女子って陰キャ男子めっちゃ嫌いだよな、それこそ親の
仇
かってくらい冷たい目で見てるときあるし。
「えーさじょっち今もう読んでよ」
「お前ね」
「だって気になるんだもんー!」
「いやだからっ………! そもそもアレじゃない可能性もあんだろ?」
「もう今の席で良いのにー」
「俺はやだよ。端っことはいえ一番前の席でよく当てられるし、後ろからは奇襲されるし」
「奇襲? 何のことー?」
「てめ」
俺が後ろになったらちょっかいかけまくってやる。