Yumemiru Danshi wa Genjitsushugisha RAW - chapter (131)
理屈じゃない
「──てな感じで。実行委員側の進捗はあんまり芳しくないって感じでした」
「……それは」
「……」
生徒会室。お目当ての書類が半分程度しか持ち帰れなかった事で姉貴の機嫌が急転直下。や、急転してねぇな……火に油? こめかみに波動を感じる。肉まんを与えねば……あれそれ血糖値上がんね?
「──妙だな」
「……だね」
「妙……?」
生徒会長──結城先輩は俺の言葉を額面通りに受け取らなかった。
花輪
先輩も同じ感想みたいだ。いつも常に浮かべてる微笑みを消して結城先輩と二人して考え込んでいる。クール系イケメンが二人になっちゃったんだけどどうする? 俺も考え込む?
「本当だとして、委員会は何故それを生徒会に報告しない? 作業環境については生徒会側の案件だ」
「実はまだ逼迫していないという事では?」
「ないんじゃないか。それならわざわざ下級生に無様を晒さない」
「ヒュウ……キッツいねぇ」
甲斐先輩も意見を投げ、
轟
先輩は結城先輩の辛辣な言葉に場をつつくような言葉を返す。全員が全員ではないけど、いかにも“生徒会”っぽい空気感だ。初めて真面目なシーンを目の当たりにしたような気がする。
「──力量の問題でしょ。実際、この有り様だし」
「姉貴」
「渉、アンタもう良いよ。帰りな。後はこっちで調べる」
「えっ」
え、良いの?
面倒ごとの気配がムンムンと出てる中で帰宅許可出ちゃったよ。すげぇホワイト企業じゃん。繁忙期に定時で上がるのを許されるみたいなもんだろ? マジかよ半端ねぇな。何が半端ねぇってよく考えたら俺ここの社員でも何でもないとこだよな。全然ホワイトじゃなかったわ。部外者に仕事させんな。
「待て楓。渉にも手伝ってもらったらどうだ?」
「は? 何で。コイツ部外者じゃん」
「今更だろう……。聞いた話では実行委員に知り合いが居るんだろう? そういったパイプはあった方が良い。俺達では一般生徒との距離が遠い」
「アタシはコイツを関係無いことに巻き込むつもりないから」
「弟なんだろう? “佐城楓”の弟が、この先もずっと無関係で居られる保証がどこにある」
ん……え? この不穏な空気はいったい……結城先輩は何を言い出すん? 嫌な予感しかないんだけど。今後生徒会から距離を置いたとして、俺が無関係じゃ居られない的な事言ってなかった? 普通に怖いんだけど。
「……あの、甲斐先輩? どーゆーことですか?」
コソッと甲斐先輩に尋ねる。こういうときはなるべく距離の近い人に頼るに限る。二年生の先輩っつーのも大きいな。それでいて生徒会そのものに執着が無いのも知ってるから訊きやすい。
「……去年の11月まで、学校の運営は基本的に出資家庭の多い“西”側の生徒だったんですよ」
「あー……っと?」
「色々といざこざがあったんです。その中で、偶然とはいえ“東”側の台頭を積極的に牽引する形になった一人が──」
「
拓人
。うるさい。黙りな」
「っ……はい。すみません」
「……」
いやいやんな冷たく当たらんでも。甲斐先輩がまるで家での俺みたいになっちゃってるから。眼鏡イケメンの無駄遣い。この人が喜ぶのは多分もっと
嗜虐
的な冷たさだから。そんなガチもんの冷たさを喜ぶMじゃないから。
……うん。眼鏡イケメンの無駄遣いだわ。
……つまりあれか。件の“東と西”問題。姉貴が突然俺を遠ざけようとしたのは、今回の問題にそれが絡んでる可能性があるから遠ざけようとしたってことか。去年の11月までこの
鴻越
高校の運営が“西”側だけの面子だったって事は、文化祭実行委員会もほとんど“西”側の生徒で運営されていた事になる。
去年との違い──それが“東と西”問題に繋がるわけか。
「楓。だからといって渉に深入りさせるつもりは俺も無い。そこは信じてくれ」
「ッ……わかった。あくまでコイツは無関係だ。何も知らない一年がただ手伝うだけ。何かあったら
颯斗
、絶対に許さない」
「……ああ。それで良い」
……ちょっと? すげぇ話進んじゃってるけど俺の意思は? いやまぁ
薄
い手伝いくらいなら受けてやらん事もないけど。面倒ごとはマジ勘弁だよ?
「──二人とも。今はとにかく状況を整理しよう。少なくとも去年との差異は僕らの問題だよ?」
「ああ、そうだな。こればかりは楓の意向を汲もう。渉、とりあえず今日はもう良い。雑用が必要なときはまた呼ばせてもらう。報酬は弾もう」
「え、え? あ、はい──えっと、はい」
つまりエージェント契約ってことですか。
若干シリアスな空気感に付いて行けてない。ちょっとした映画のワンシーンでも見てたみたいだ。その空気感のまま俺にパスされても頷くしかできないって。こちとらそういうシャンとした世界で生きて来てないから。うん、だからそう──ただの雑用であの弁当が食えるなら喜んで。
◆
ポンッ、と放り出された感が強い。正直何が何やらでもう。とりあえず姉貴や結城先輩が俺を厄介事から遠ざけてくれた事は理解した。もともと手伝わなくちゃいけない立場でもないし、なに気ぃ遣ったつもりになってんの、なんて思うところもあるけど、ちゃんと一線引いてくれた感が否めない。この高校……去年まで色々あったのね。
今後、文化祭の運営に触れる機会があるかどうかは知んないけど、強いて気がかりがあるっつんならやっぱ夏川が実行委員会に携わってる事だよな……。進捗具合が影響して夏川に強いシワ寄せが行かないと良いけど。
ちょっと様子見てくか……?
「──……あ?」
廊下の角を曲がった瞬間、妙なものを目にする。文化祭実行委員会の教室から出て来た2人の女子生徒──と、1人の男子生徒。ムカつくイケメンこと佐々木が、片方の女子生徒から肩に腕を回されて連れられている。何だあれ……。
「はー、やってらんねーわ。タカもよくあんな真面目にやるよね」
「えっと……はい」
「上が真面目にやんないんだし、あたしらが付き合う必要ないもんね」
スマホの時間を見る。まだ最終下校まで時間はあるから文化祭実行委員会はまだ作業途中のはず。それなのに三人はバッグを持って教室から離れて行く。
「──ソだろ」
信じ難い予想をしてしまう。それでも嫌な予感がして、思わず教室の中を窓ごしに覗いてしまう。さっき訪れた時にさえ積み上がっていたファイルや書類。それがどうなったか。
教室後方、二年生側の端の2つは空席に。その隣、一年生スペースの端に佐々木が座ってた場所も空席になっていた。その机の上にアナログの結晶が積み上がっている。
まるで──その隣に座る夏川に全てを押し付けるかのように。
「失礼します」
室内全員の顔が向く。何で、と思った。このスライドドアを開けるつもりなかった。こんな注目されるつもりはなかった。教室の前方、顔をやや蒼白にさせた三年の長谷川先輩が怯えるように俺を見て来た。
「……えっと、まだ何か?」
「一年C組。抜けた男子の代わりです。生徒会は関係ないんでそんな身構えないでください」
「ぇ……」
許可を貰うまでもなく、佐々木が座っていたはずの席に着く。隣に座る夏川が戸惑うように声を発した。何でって思ってるだろう。大丈夫、俺も思ってる。いや何も大丈夫じゃねぇし。
「わ、渉……?」
「夏川。これ、サクッとどこ埋めなきゃか教えてくんない?」
「えとっ……!佐々木君はサボった訳じゃなくてっ……!」
「ああうん。良い。何となく解るし」
見た感じ、佐々木の肩に腕を回してた女子生徒は二年の先輩だった。相手が異性とはいえこればかりはドンマイと思う。真面目なアイツの事だから途中で抜け出すのは本意じゃないだろうとは思った。
逆らえないっつー理屈は解る。でも、同情心は少しも芽生えない。
「えっと、渉……?」
「……」
お前、夏川好きなんじゃねぇの。