Yumemiru Danshi wa Genjitsushugisha RAW - chapter (165)
文化祭開会
【第49回私立鴻越高校文化祭──『Brand New World〜新たな時代へ〜』! ただ今をもって開会します!】
体育館に設置された特設ステージ。その壇上で文化祭実行委員長の
長谷川
先輩がマイクに乗せて明るく開会を宣言すると共に、会場のオーディエンスが雄叫びを上げた。どうでもいいけど真面目な感じの眼鏡女子が振り切って明るい声を出してるとこを見ると「あ、可愛い」ってなる。大きい声出すと思ったより萌え声なんですね先輩。
今年の文化祭のテーマは新しさを追求してることからちょっとハイテクな出し物が多い。俺らのクラスは『なぞなぞ大会』を謳って無線で反応する早押しボタン取り入れたし、頭が飛びそうなからくりシルクハット(なお、ボツ)も作った。三年生が定番の出し物が多い分、二年生がより未来性を追求した出し物になってる。ミニ四駆のレース大会が未来的なのか謎だけど。
皮肉にも準備段階じゃ実行委員会で〝古き伝統〟が障害になったりしたけど、本番のスタートとしては順調な滑り出しに思えた。今だに運営目線になってしまうあたり、夏川とは別で文化祭実行委員会にまだ思い入れがあるんだろうな。とりあえず成長を見届ける感じに腕組んどくか。
開会プログラムの終了と同時に合唱部と吹奏楽部のコラボコンサートが始まる。ここから生徒と来校者は自由行動になる。体育館に残ればこのままコンサートが見れるし、その後は軽音楽部だったりOB会有志によるパフォーマンスだったりが待ってたりする。初手からシフトが組まれてる俺みたいなのはここで退場なんだけども。
◆
「───続いて第二問! 『お風呂場に居る動物ってなーんだ?』」
「きたっ! カピバラ!」
「違う」
「え、冷た」
隣に座る小学生がゲラゲラ笑う。教室の後方で見学してる父兄の人達からもクスクス笑われた。ダボついた犬の着ぐるみのフードから顔を出した奴が冷たくあしらわれてる様子が余計に面白いんだろう。
うちのクラスが開くなぞなぞ大会は自分で言うのもなんだけど凝っている。ポイントはなぞなぞの回答者側に大喜利担当のサクラが用意されること。特別な台本が準備されてるわけじゃないけど、基本的には正解せずにボケる前提で参加する。そして女子のMCがそれをイジるというバラエティ番組さながらのシステム。だから参加する子供や父兄さんに笑われるのは目的に適ってるってわけだ。
飯星
さんが何でそのサクラの一人に俺を選んだのかは謎だけど。
「おめでとう。はい、これ景品」
「やったー!」
魔女の仮装をした
白井
さんが小学生の少年にハロウィンっぽく包装されたお菓子を渡す。小学生の少年が嬉しそうにお母さんの元に戻って行った。ふっ、まだまだ子供だな。俺だったらお菓子より白井さんを見てしまう。
サクラの俺を含めた五人の参加者で早押し対決して、正解者が出たら景品を渡して直ぐに次の参加者の五人と交代する。そうやって一問ずつ早押し対決をして交代、交代と繰り返す事で参加者が流動的になり、よりたくさんのお客さんが参加できるというわけだ。実は景品のお菓子が一番お金かかったと聞いた。
「ほい山崎、間違って当てんなよ」
「間違って当てるってなんだよ。そもそも当たんねぇし」
「それが怖いんだよ」
カーテンで仕切った教室の後ろのバックヤードで、オオカミの着ぐるみを着たサクラ役の山崎が自信ありげに言う。怖いんだよなぁ……なぞなぞに弱いとはいえ、自覚無しに小学生をぶった斬る勢いでドンピシャの正解を出しそうなんだよ。まぁ偶には有っても良さそうだけど、後でMCの女子勢からチクチク言われそうだ。
「ごめん佐城くん。もっと良いイジり有ったかもしれない」
「あいや、別に良いんじゃねぇかな」
ちょっとシュンとした飯星さんが謝って来た。や、確かに「違う」の一言は中々の切れ味だったけど……芸人じゃねぇんだからさ……んな事で謝らんでも。どこ目指そうとしてんだよ。そういうとこ真剣になっちゃうあたりクラス委員長っぽさがあるよな。
このなぞなぞ大会の準備を通じて間違いなく女子に何らかのスイッチが入った。きっとこうしてウェーイ系になって行くんだろうな。何でその手の技術が俺の方が上と思われてるのかも謎なんだけれども。たぶん飯星さんは俺の何かを勘違いしてる。
俺、山崎、
中里
、
岩田
のローテーションでサクラ役をこなすと、午後からは別の四人に代わる。気のせいだろうか、午後担当から三組目にかけてビジュアル面がレベルアップして行く気がする。気のせい、なんだよな……?
「あ、佐城くん……」
「名人。お疲れ」
「め、名人だなんて……」
なぞなぞを用意する担当の一人だった一ノ瀬さん。他の女子がネットやSNSで拾い集めていた中、自分でオリジナルを三十問作って来るという伝説を残した。俺からすりゃ一ノ瀬さんはまあまあ知ってる方だけど、他からすれば最近可愛くなった謎多き少女。「あれ、一ノ瀬さんって実はスゴいんじゃね?」的な空気になって〝名人〟なんて呼ばれ始めた。心中お察しします。ドンマイ。
「佐城くんからは……いつも通りが良いな」
「あ、うん。ごめん一ノ瀬さん」
俯きながらもはっきり断られてちょっと慌てる。もしかしたら懐かれてるんじゃねぇかと思ってたけど、やっぱりこの前の『さじょっち号発車事件』で距離が空いたのかね……? 何も無かったかのようにスマホでメッセージ送って何とか気まずい感じは防げたけど、ちょっと壁作られちゃったかな……。
「
笹木
さん、午後から来るんだっけ? 昼は食べてから来るって?」
「……」
「………あの、一ノ瀬さん?」
〝名人〟って呼んで恥ずかしそうに俯かれてから視線を寄越してくれない。え、そんなに嫌だった? 俺とか寧ろ〝名人〟って呼ばれたいくらいなんだけど。そんなに怒るもんかな……。
「………かわいい」
「え?」
「……わんちゃん」
君の方が可愛いよ。
おっと危ねぇ。つい反射で口説いちまうところだったぜ。まったく俺ってやつぁ……こういう軟派なところをどうにかしねぇといけねぇな……!
俺が着る犬の着ぐるみの布地をサワサワして感触を確かめる一ノ瀬さん。
綻
んだ顔が可愛い。気を付けろ? やりすぎると今度は俺が一ノ瀬さんをサワサワしちゃうぞ?
「あ。着る? 着ちゃう? これ着て笹木さんと回る?」
「あ、いや……」
こんなワンコロを模した着る毛布なんて俺が着てても可愛くねぇしな……一ノ瀬さんからは好評だけど芦田からは爆笑されたし。俺より一ノ瀬さんが着た方が絶対に可愛い。百人が百人そう言うに決まってる。
「あ、脱がないで。それ着て回ってね」
「へ?」
笹木さんを迎えに行くため、着ぐるみを脱ごうとするとMC用のカンペを整理してる飯星さんが口を挟んで来た。何かとんでもない事を言われたような気がする。
「佐城くん、
深那
ちゃんと後輩ちゃんと回るんでしょ? それ着て宣伝しながら回ってよ。ちゃんと『1-C』って背中に書いてるし」
「えっ、これ次のサクラに引き継ぐんじゃねぇの?」
「まだ他に2着くらいあるから。一人くらい出歩いても大丈夫だよ。宣伝よろしくね」
「えっ、ちょ……!」
外しかけた着ぐるみのボタンを元に戻され、背中を押されて教室の外に追い出された。急展開過ぎて唖然とする。いや、ちょ、えっ……? 俺行き交う人にどんな顔向ければ良いの……?
「あの、佐城くん……」
「一ノ瀬さんっ……!」
「ひゃうっ……!?」
思わず一ノ瀬さんの腕を掴んで引き寄せてしまう。この状況で一人とかツラ過ぎる……! もう下心とか抜きに一ノ瀬さんには居てもらわないと困る!
「一緒に……視線浴びようぜ……」
「あぅぅっ」
目がくるくると揺れる一ノ瀬さん。混乱が見て取れる。だがしかし是が非でも逃がすつもりはない。もともと笹木さん含めて一緒に回るつもりだったんだし、別に良いよな? な?
「あ、そうだ笹木さん」
そうだ笹木さんだ、笹木さんと合流しよう。そうすりゃこの視線も少しは分散するはず。何せ笹木さんはJCのコスプレをしたJCだからな。みんながつい見てしまうに違いない。俺も見る。
「──あ、
風香
ちゃん」
「あ、連絡きた?」
「うん……もう来てるらしくて、探してるって」
「え、マジ? 校門まで迎えに行けたら良かったな。今どこら辺に──ん?」
笹木さんの居場所を訊こうとした瞬間、肩をポン、ポンとタッチされる。これはっ……! この淑女のような所作……無闇に声をかけないという謙虚さ……間違いないっ、この感じは今まさに話してた笹木さんに違いな──
「──お兄ちゃんどこですか?」
ささき違いだったわ。