Yumemiru Danshi wa Genjitsushugisha RAW - chapter (25)
生徒会室の魔王
姉に連日呼び出されたからと言って誰が好き好んで生徒会室などという場所に近付くだろうか。普通に考えても用事があったりする奴か、あるいは長たる生徒会長と親しい友人か。いや、もう一つある。
ストーカーである。
「……あのオンナッ……!」
生徒会室の扉、そこに
齧
り付くように引っ付いて中を覗き込む不審者。いる、今日もいらっしゃるわあの子……前と全く同じセリフを零してキーキー鳴いてる。ストーカーやるにはそのド派手な金髪クルクルの頭は不向きじゃないだろうか。スマホポチー。
【そんなに私を生徒会室に入れたくないのッ!?あんな用心棒が居るなんて聞いてない!もう帰る!】っと。
~♪
「あ」
「あんなに近くに───え?」
スマホ、マナーモードにしてなかったの巻。静かな廊下で俺のメッセージ受信音が響いた。思わず声を発してしまい、彼女の尻越しに俺と金髪女の目が合う。あれ?パッキンとかそんな髪型ギャルしかやんねぇよって思ったけど意外と清楚……どころか上品っぽい?いや一瞬だけだったわ、こっちに屈んでケツ向けてる時点で痴女。
「……」
「……」
奴は超驚いた顔でこちらを見ている。驚いたのはこっちだよ。【は?10枚追加な】ってなんだよアレを突破しろと?てか超こっち見てんじゃんどうすんの、どうすんのよ俺……!
「……な、なんですの」
や、別に何も用は無いんんんっ!?今何つった!?自然過ぎて一瞬流しかけたけどとても稀有な口調ではなくて?あれ、よく見たら日本人っぽくないな……あ、ハーフ?オホホホホ。
「何でもございませんよお嬢様」
「あ、あらそうなの。わたくしは偶然通りかかっただけよ?」
口を滑らせて過去に例を見ないほど丁寧な口調が出てしまったが、パッキンお嬢様には何の違和感も感じなかったようだ。なんかわざとらしく凄く上品に笑いながら向こう側に去ってったわ。よくわからんが撃退できたらしい。
姿形が見えなくなったのを確認するとそのまま生徒会室へ。余計なメッセージさえ送んなければまだマシな仕事だったかもしんないけど、あの有言実行の姉だ、本当にこの前より多く手伝わされそうだ。
◆
「で、何なんすかあの金髪っ子」
「は?なにアンタあんなのがタイプ?」
姉貴に問われ、そういえばまだそんな風に考えてはなかったなと思う。
……ふむ。タイプと言われれば確かに顔は整っていた。口調からしてもお金持ってそう……最低な感想しか浮かばねぇ、どっちにしても目立つ金髪とか近寄りたくない女子ナンバーワンと言っても過言じゃねぇわ。
「キープで」
「鏡見てこい」
「わはははッ!辛辣!」
轟
先輩に大ウケ。もう喋り方からして事務系に向いてないわな。あの人の机の上に割り振られた書類の少なさよ。ちょっと扱い方を覚えたかもしれない。
「
茉莉花
が悪かったな、渉」
「あ、はい、え?」
普通に会話に参加した結城先輩。おそらくあの子の本名であろう名前を呼び、そして普通に俺の名前を呼んだ。あまりに自然過ぎて訊き返しちゃったよ。すげぇ親しげじゃん。
俺の反応が面白かったのか、花輪先輩が説明してくれた。
「彼女は
颯斗
の許婚なんだ」
「おい、蓮二」
「へぇ……え”」
はぁ!?許婚!?この世にまだそんなのが存在すんの?あの子もそうだったけどもしかして結城先輩ってお金持ちだったり?そうじゃないと許婚なんて
今日日
ならないでしょ。
驚いて姉貴の方を見ると片手で頬杖を突いて不機嫌そうに黙々と作業を進めていた。何かあまり興味無さそうだな。
けど状況は読めた。あの子は結城先輩の許婚ってか彼女みたいなもんで、向こうはそれが満更ではないんだ。だから近くに居る女の姉貴が気に食わないんだろ。学園ドラマとかに出て来るライバルキャラかよ。
って思ったけどリアルに考えるとシャレにならなくない?実害あったらすげぇ嫌なんだけど。
「ちゃんと手綱握っといてくださいよマジで」
「あ、ああ……肝に銘じとく」
結城先輩があの金髪女子について、ひいてはこの
許婚
関係についてどう思っているか。そんな当人の感情なんてどうでも良い。所詮そんな個人的感情なんて社会じゃどうにもならないだろうし。家同士の関係で許婚なんてなってんならどうこうしたところで変わるもんでもないだろ。これは学園ドラマじゃねぇんだ。
佐城家
に影響が及んだらマジで許さない。信じてるぞ先輩。
「はっ、あんなん一声で蹴散らせるし」
俺の気持ちを汲んだんだろう、姉貴がわざとらしく妖艶っぽく脚を組み替えながら余裕そうな顔を向けて来た。実害?何ですかソレ?このゴリラに害を加えられる存在がこの世に居るとでも?超余計なお世話だった気がする。
アレだな、姉貴の周囲って環境だけ見たらありがちな学園ドラマみたいだけど当の本人が主人公のソレじゃないんだよ。格闘系の女子高生ってなんだよ……。
「ほら、終わったぞ姉貴」
「……早いな」
「追加ね」
教室に帰る準備をしながら仕上げた書類を纏めると机の上に新たな書類が追加された。姉貴ィ……結城先輩のお褒めの言葉が一瞬で掻き消されたんですけど。血の繋がり一つで絶対に扱いが違うよな……。
「………ねぇ」
「……」
「アンタよアンタ」
「あ俺」
急に話しかけられたから俺じゃないかと思った。でもアンタって言われて俺って分かっちゃうのってどうなんだろうな……でも明らかにこん中でそう呼ばれるの俺だけだろうし……。
「あの子とどうなの。あの子、夏川さん」
「おお?〝あの子〟ってこの前の?弟っちの彼女さん?」
「へぇ、意外だね」
いやちょっと待ってください。この場で話します?軽く晒しなんですが。姉貴もどうなのって絶対分かってて訊いてんじゃん。進展なんかあると思ってんのかこのメスゴリひぃぃぃっ!!?睨まないで!!
「献身的な従僕として
邁進
しております」
「ほぉん、じゃあ毎日一緒に居るのね」
「いや……遠くから」
「この〇〇野郎」
「貴様」
幾らお姉様とて許せぬ。今なら手から気弾が放てそう。でも何故だろう、姉貴が片手で弾く姿が想像できちゃう。そして倍返しを食らうまでが様式美。
俺と夏川の関係性について何か誤解されてるようなので懇切丁寧に説明してやる。
「あの顔と立ち居振る舞い見たろ。俺がどうこうできる人じゃねぇっつの」
俺を引き合いに出す。これ以上説得力のある説明はねぇだろ。見た目!能力!性格!何一つ
比肩
しておりません! オラァ! 目から汗汁ブッシャー!
「はあ?やってみなきゃ分かんないじゃん」
「もう二年近くやってみたわ」
「あの子が………アンタが前から騒いでた子だったんだ」
「別に騒いでねぇよ」
「や、騒いでたから」
いや騒いで───ましたね。お陰様で今になって慎ましく生きられるようになりました。分相応な振る舞いに切り替えたお陰か、最近は色々と上手く行っております。この今の理不尽な状況を除いてなぁッ!
尻に敷かれるなんて言葉があるけど姉貴は結婚してもそれに留まらないだろうな。ヒップドロップしてそのまま椅子として使っちゃいそうだ。だけど俺の頭の中の
義兄
さんはとても喜んでいる、何故だ。
「───で、こっ酷くフラれて腑抜けたわけね」
「は……?」
急に斬りつけられたような感覚だった。あまりに突飛な
邪推
をされたもんだからついイラっとしてしまった。無意識のうちに顎を引いて見上げるように姉を睨む俺がいた。
……いや落ち着け。事実じゃねぇか、俺が夏川にフラれるなんて日常茶飯事のこと。何を今更怒る必要がある。
「……そうだな、もう何十回もフラれちまったよ」
「なんじゅっ……アンタ、そんなに告ってたわけ?」
「ああ。大真面目に、冗談抜きの話だ。全くもって身の程知らずな話だろ?」
どうだ!これで俺の熱意がどれだけのものだったか伝わっただろ!姉貴が言うようにたったの一度で折れるような男じゃないんだよ俺は!自分のスペックすら理解してないピエロではあったんだけどね……。
「───昔から、姉貴やお袋が教えてくれてたはずなのにな……」
「……!!」
キモい、モテない、バカ、アホ。姉貴からは足蹴りに掌底、コブラツイストにキャメルクラッチそして熱い拳。ちょっと待って、姉貴の技のバリエーション多くない?総合格闘技かよ。そのうち延髄斬りとか付き合わされないよね?やっべ今更怖くなってきた。
「も、もう良いだろ?昼休みも終わりそうだから戻るわ。先輩方も、大変だろうけど頑張ってください」
「え、ええ……渉くんも、めげずに頑張ってください」
ちょ、甲斐先輩。泣きそうになるんでやめてくれませんか。色々と諦めて不遇の扱いを受け入れた凡人はそこを理解されて励まされると簡単に泣いちゃうんですよ!その辺の村人Aなんか忘れて姉貴に尻尾振っててください!
イケメンは性格もイケメン。見た目は内面の一番外側とはよく言ったもんだ。この人達と接してるとそれをまざまざと見せ付けられる。そのせいか、俺は廊下のガラスに映る自分の顔を見て唾を吐き捨てたい気持ちになった。いややんないけどさ。