Yumemiru Danshi wa Genjitsushugisha RAW - chapter (128)
あの日
何が気に障ったのか2人に火を
点
けてしまった。個人的にはラブレターって事にしたかったけど、謎の気迫に負けて気が付いたら「ちょっとした伝言だった」と認めていた。ここで『これだから姉貴に勝てねぇんだ』と謎の無力さに苛まれた俺。骨の髄にまで染み込んだ何かに気付いてしまったような気がする。出番だ、一ノ瀬さんの手紙(癒)。
手の平を返したように興味を無くして真顔になった芦田が放った「だよね」に女子の怖いとこ全部が詰まってたように思う。きっと芦田は夏川から悪い部分を吸い取ってるんだよな。ははっ、動けねぇ。
授業中、何とか持ち直すとさっそくアプリで笹木さんと一ノ瀬さんをフレンド追加。笹木さんは女子中の制服で友達と4人で映ってるアイコンだった。何か送ろうと思ったけど、授業中に通知音が鳴ったりしたら悪いから今はやめといた。一ノ瀬さんは由梨ちゃん先輩に撮られたのかちょっと驚いた顔のアイコンだった。良き。
「一ノ瀬さん、フレンド追加しといたよ。スタンプ送っといた」
「ぁ……!」
昼休みになってフラっと伝えに行くとちょっと嬉しそうな顔をしてくれた。嬉しいのはこっちだよ一ノ瀬さんっ……!『佐城参上』スタンプめっちゃ送っちゃう。や、本気で壊れたとか思われそうで怖ぇな……やっぱやめとこ。
一ノ瀬さんはいそいそと学生鞄からスマホを取り出すと電源を入れ始めた。学校じゃ電源落とすタイプなのね……スマホカバーとかも無いシンプルな辺りが一ノ瀬さんらしい。
「え、メッセージ? 佐城くん交換したの!?」
「お。なに、白井さんも俺と交換──」
「い、一ノ瀬さん!私も良いかなっ……!」
はっはっは、知ってた。何なら白井さんとはクラスのグルーブで繋がってる。後で一ノ瀬さんも追加しとかないと。や、俺がしなくても白井さんとかが全部やってくれそう。
岡本
っちゃんが出遅れて悔しそうにしてるのがウケる。
「ん」
震えたスマホを覗くと、アプリにデフォで入ってる可愛らしいクマさんのスタンプがよろしくってお辞儀してた。何だか本人以外からも宜しくされたような気がする。ちょっとゾクッとしてしまった。
俺の中でバイトの先輩だった自分がまだ残ってるのか、一ノ瀬さんの友達が増える
様
がただ嬉しく思えた。
◆
生徒会室に向かいながら思う、俺、何で生徒会室に向かってんだっけ?
ちょっと考えて浮かんだのは生徒会長こと
結城
先輩がくれる超美味い弁当。おかしい……完全に餌付けされてるような気がする。生徒会になんて絶対入らないつもりなんだけどな……俺の足取り何でこんな軽いの……? 腹減ってるからだったわ。
「あれ余りもんなんだよな……」
未だに信じられねぇ。姉貴もう結城先輩で良いんじゃね? 俺にとっても良い未来しか見えねぇわ。食欲が劣等感を上回ってる。ヨダレ分泌し過ぎて血が足りない。食わねば。
「──あっ……え!? 佐城!?」
「
三田
先輩」
向かってる途中で風紀委員のマスコットこと
稲富
先輩の保護者──三田先輩を発見。俺と目が合うと、階段の方と俺を交互に見ながらあたふたとしていた。何だっ、もしかしてヤベーとこに出くわしたか。男? 男なん?
逢瀬
中?
「ア、アンタ何でこんなとこに居るの!」
「や、生徒会室に向かってて……どしたんすかそんなに慌てて」
「どうしたも何もっ………ちょ、早く──!?」
「おお、佐城じゃないか」
「え?」
俺の両腕を掴んで回れ右をさせようとする三田先輩。その剣幕に大人しく従おうとすると、階段際の壁から稲富先輩の腰を抱いた四ノ宮先輩がヌッと出て来た。何あのプレイボーイ感……稲富先輩は私のものだと言わんばかりの絵面。風紀委員の風紀ヤバくね? 今日の先輩いつも以上にイケメンなんだけど。ギラついてる。
「君も来い」
「ふぇ?」
四ノ宮先輩はつかつかと歩み寄って来ると俺の腕を掴んで強く引っ張った。いやちょっと、ロリっ子みたいな声出ちゃったんだけど恥っず。
とととっ、と体勢を整えると苦笑いしてる稲富先輩の反対側に付いてた。ふと右腕を見ると四ノ宮先輩からガッシリと腕を組まれている。え、マジ? 嬉しいけどどういう事? やだ二股?
「えと……先輩? 俺、生徒会室向かってたんすけど……」
「なに……?」
冗談は置いといて私用で離れようとすると、四ノ宮先輩は腕の力を強めてカッ、とその場に立ち止まった。そこで察する。もしかして、四ノ宮先輩いま機嫌悪いんじゃね?
三田先輩を見ると「あっちゃー」な感じに額を押さえてた。成る程そーゆーことですか。え、でもこれそんな悪い状況? 冷静に考えて美人の先輩と腕組んでるんですけど。しかも二番目の女。女じゃなかったわ俺。
「どういう事だ佐城。生徒会に入るつもりか」
前言撤回。悪い状況だったわ。え、怖っ……!すっごい睨まれてんだけど!三白眼怖い!
「は、入らないっす……入らないつもりっす」
「そうか」
じゃあ来い、と引っ張られ続けて3分。気が付けば食堂の食券機の列に並んでいた。稲富先輩を前に抱く四ノ宮先輩の後ろで何を食うか考える。腹の中がちょっと高級志向なんだよな……えび天、えび天を食おう。
そうしてる間に姉貴にメッセージを送る。
【四ノ宮先輩に捕まった。今日行けないから】
【は? 抜け出せば】
【何か機嫌悪いんだよ】
【あー、わかった放課後な】
さらっと放課後の拘束が決まった。おかしい……手の付いてない結城先輩の弁当があると思うと嫌じゃなくなるのは何故? 思考がもうデブ。そのうちポテチとコーラで釣られそう。
でも姉貴があっさり昼休みを譲ったのは意外だ。相手が四ノ宮先輩だと弱いとこあんのかね……。これは良い事を知ったかもしれない。
天ぷらセットを持って四ノ宮先輩の後を付いて行く。空きテーブルを探してると、とある女子生徒のグループが率先して立ち
退
いて「ここどうぞ!」なんて言ってきた。弁当持ってるけど絶対に食い終わってないと思う。俺ここに居て良いの? 大丈夫? 四ノ宮先輩のファンから刺されない?
向かいに稲富先輩と四ノ宮先輩。俺は三田先輩の横に座る。前に同席した時と違って視線集めてるから居心地の悪いこと悪いこと。
「…………悪いわね、巻き込んで」
「や、その……どしたんすかこれ?」
「それは……」
三田先輩が小声で謝って来たからついでに訊き返すと、何やらモゴモゴと言いづらそうに俯いた。言えない事情っぽい。触らぬ神に祟りなしな感じ……?
「そういえば、佐城くんは何で生徒会室に向かってたんですか?」
「ん? ああ、最近ちょっと姉貴に呼ばれて仕事手伝ってるんすよ」
「生徒会に入らないのにか?」
「う、はい……えと、姉貴、大変そうなんで」
「ほう……」
稲富先輩の質問に答えたはずが四ノ宮先輩との会話にシフトしてた。圧が凄い。ただ受け答えしてるだけなのにすげぇ理不尽な目に遭ってる気分になる。まるで姉貴と接してるような気分だ。間違っても結城先輩の弁当と引き換えになんて言えない。
てか四ノ宮先輩、機嫌悪い割には普通のうどんなんだな……俺ならイライラしてる時はガッツリ系を攻めるけどな。カツカレーとか。
「───羨ましい」
「え」
「楓が羨ましい。私も弟が欲しい」
「なるほど」
成る程じゃなくね? 俺何も理解してないんだけど。反射で返事すんのやめろ俺。え、弟が欲しい? そもそも先輩って一人っ子なん? その、それを言うなら俺じゃなくて四ノ宮先輩のご両親にっていうか……まぁ、まだ頑張ればワンチャン有るんじゃないですかね。
「一日だけ私の弟にならないか。あと風紀委員に入れ」
「えっ」
すげぇ事言い出した。
え、四ノ宮先輩の弟? 俺が? 割とガチで嫌かもしれない。半日くらいで付いて行けなくなる自信ある。朝4時半とかに起こされそうで嫌なんだけど。
てか四ノ宮先輩の弟になったらアレだろ? あの偏屈な
祖父
さんと顔合わす事になるんだろ? ヤだよ、あの人何か妙に嫌なとこに踏み込んで
来
んだもん。あと風紀委員にもなりたくない。
「あー……えっと……姉貴が良いって言ったら」
「わかった」
何言ってんの?
わかっちゃったよ。何言ってんの俺? 姉貴の許可必要? ピンチに姉貴を引き合いに出すとか末っ子感ヤバくね……恥ずっ、姉貴に知られたくないんだけど。直ぐに訊いたりしないよな? 機嫌治ると同時に全部無かった事になんねぇかな。姉貴だったら忘れたりすんだけど……。
「ほらゆゆ。あーんしろ」
「あ、あーん……」
バリやべぇ。
いやマジ。四ノ宮先輩やべぇな。暴走状態っつーの? ドラマとか映画で見るキャバクラの常連客みたいな感じ。場の中心が完全に四ノ宮先輩。カリスマの無駄遣いが凄い。いつもの四ノ宮先輩どこ行っちゃったの。
「………」
同情するような視線を送って来る三田先輩。見返すとまた申し訳なさそうな目になった。こんな苦労性だったっけか……ずっとどこかしらホールドされてる稲富先輩の方が上を行ってる気がしなくもない。今日ばかりは先輩も四ノ宮先輩に可愛がられに行ってる節がある。絶対世渡り上手なタイプだわ。
小声で三田先輩の視線に答える。
「や、大丈夫っすよ。この理不尽な感じは姉貴で慣れてるんで」
「悪いわね………その──」
「良いです良いです。皆まで言わなくても大体解りますから」
「や、こればかりはアンタでも──」
増長して凄みの増した四ノ宮先輩。許す姉貴。食事はうどん。謝る三田先輩。語られない理由。気を遣う稲富先輩。姉貴を想起させる理不尽さ。既視感──うん。
「──重い日なんすよね?」
「察し良すぎてキモいんだけど」