Yumemiru Danshi wa Genjitsushugisha RAW - chapter (129)
回り道にて
『は? 何言ってんの?』
わかる。
四ノ宮先輩が願うままの事を姉貴に電話でぶつけると、なかなかの音量でスマホの向こう側から呆れるような声が返ってきた。どうだ四ノ宮先輩………常時不機嫌モードの姉貴をそう簡単に乗り越えられると思わない事だ……
彼奴
を倒したくば肉まん攻めにして太ったところをカメラに収めることだな……あれ、無意識のうちに物理的に倒す方法考えてた。
「楓、お前は恵まれ過ぎだ。好きにやりたい事をやって好まれたい者にだけ好まれ、あまつさえ弟に弟してもらってるなんてさすがにズルいぞ!」
『別に好まれたい訳じゃないっつの。てかなに、アイツそこに居んの? 何でそんな話になってんの』
「佐城は──渉は風紀委員にもらうぞ!!」
『アンタ
今年一
ヤバいね』
わかる。
てか“弟をする”ってなに。前もどっかで聞いた気がすんだけど。弟が弟しちゃダメなの? 後で生まれたら勝手に弟になるんじゃないん? あれ習得するもんなの?
いきなり名前で呼ぶのマジやめてくんねぇかな……周り四ノ宮先輩のファンだらけだぜ? 急に男の影みたいなの見せるのやめた方が良いって絶対。俺がイジめられちゃうから。
『てか渉は生徒会だから』
わからない。
『どっちにしても落ち着きなって。アイツならまた今度肉まん一個で貸し出してやるから、今日は安静にしてゆゆと
綾乃
の言うこと聞いて頼りな? それともなに、アンタにとってあの二人は頼りないわけ?』
「そ、そんなわけないだろう!」
『──なら今日は大人しくしときな。話はまた今度聴くから』
「うぅ……ぜ、絶対だぞ!」
『うるさい』
切っ──ちょっ、おい!最後の最後に突き放して切んなよ!途中まで良い感じに世話焼いてたじゃん!あと勝手に俺貸し出すんじゃねぇよ!てかタダじゃねぇのかよ!俺への報酬はお姉様!?
ツッコミどころ満載のやり取りだけど、ケアという面では俺の知らない世界すぎて口を挟む気にはなれない。俺の場合、いかに刺激せずに立ち回れるかだけだからな……。姉貴も妙に慣れてる感じだったし、完全に女子の世界って感じ。てかヤバい人はホントにヤバいのね……俺、姉貴が日本で一番ヤベー奴かと思ってた。あの日に関わらず。
「う……うるさいって言われた……」
「あ!あーえっと!きっと楓さんなりの愛情だったんじゃないですか!?そうよね佐城!?」
「はいたぶん」
「たぶんじゃないでしょ!?」
「たぶんじゃない。姉貴なりの愛情」
愛情(※愛情とは言ってない)。
姉貴、最後のほう絶対面倒になってたな……いや実際今の先輩面倒なんだけど。こーゆーときに稲富先輩とか三田先輩が側に居るのは人徳の成せる
業
か。姉貴の周りは野郎共しか居ないからてんやわんやしてるに違いない。姉貴がこうなったときは一発くらい殴られてやるかって思っちゃう俺マジで間違った育ち方してると思う。
喋る石像と化してると、スマホが震えた。
【あの日の凛に近付くな】
【や、一目見ただけじゃわかんねぇよ】
【何で男ってのはこうなん……】
【今はやめろそーゆーの】
【何でも良いから隙を見て離れな。アタシにまで面倒かけんなっての】
【それはゴメン】
【肉まんね】
この
女
随所で肉まん要求してんな。もっと美味いもんあんだろ結城先輩の弁当とか。食ったことないの? アレより肉まんが勝っちゃう事なんてあるわけ? 大阪の肉まんなら話は別かもしんないけど。
「──凛さん。そろそろ戻りましょう?」
「うむ。ゆゆ、近くに」
「は、はい」
「はぁ……」
印象的な三田先輩の溜め息。
どうだったかと訊かれればノーコメントでと即答したい時間だった。最終的に四ノ宮先輩は会った時よりえらくしおらしくなって稲富先輩と三田先輩に連れられて行った。それを見てどう思ったかというとノーコメントで。
どこで仕入れたのか風紀委員ファミリーとの会合を芦田が知ってた。ずるいずるいなんて言われたけど「くっそ機嫌悪くてワケ解らんかった」って告げるとあっ、とした顔をされた。やっぱ女子って謎の力持ってるわ。そのうち思念波で無言の会話しだすと思う。
夏川の方をチラッと見るとフイッと目を逸らされた。病む。
◆
「……あ」
放課後。風紀委員──主に四ノ宮先輩との遭遇を回避せんと遠回りで生徒会室に向かってると、西棟寄りの廊下で見覚えのある金髪を見つけた。やや俯きがちで向かいを歩く俺に気付いていない。名前何だったっか……確か、
東雲
クロマティ的な感じだったと思う。アガサ・クリスティ的な。あれマジもんの外人じゃね?
常に胸張って反り返ってるイメージだったから、俯きがちな姿勢を見てそんな一面もあるんだなと思う。ま、まさかこの子も四ノ宮先輩と同じ感じだったりしないよな……? だとしたら俺確実に今日女難の相出てるわ。朝の星座占いも後ろの方だったし。何で一日でこんなに濃い人達と出くわすわけ?
「あ、平野………」
「………」
「ちょ、ちょっと平野!無視ですの!?」
「ん、え?」
ちょっと顔を背けて目が合わないようにしてると急にクロマティが口を開いた。何か誰かに話しかけてんなぁ、なんて思いつつ普通に通り過ぎようとすると慌てて手首を掴まれた。訳が分からず変な声が出てしまう。
えーっと……そういや名前間違えられてた気がすんな……。“平野”って名字が俺の名前と相性良いんだよな。平野渉──良くね? 平野が気持ち良すぎて否定してなかったわ。
「──ども。お久し振りです。お元気でした? 名前何でしたっけ?」
「な、何ですのその軽いトーンは……しかも失礼じゃありません!?」
「や、超久し振りじゃないっすか」
「東雲・クロディーヌ・
茉莉花
ですわ!二度目は無いですわよ!」
七割くらい間違ってた。開き直っといて良かったわ……クロマティとか言ってたらキレられてたかもしんない。てかそっちも俺の名前間違えてんだけど。そもそも俺この金髪娘に名乗ったことあったっけ?
「そういえばあなた、“東”の生徒だったわね? 確か、
あの
夏川愛華さんと同じクラス……」
「はぁ……そうですけど──うおっ」
頷いた途端、顔の前にビシッと人差し指が飛んで来た。何のつもりだとクロディーヌ茉莉花を見下ろす。占い師みたいになったな……。星座占いで11位にされた恨みが沸々と沸いて来た。このっ……ペテン師めっ!
「彼女に伝えておきなさい!体験入学では遅れを取りましたが、それでもこのワタクシの敵ではないと!」
「は? 体験入学?」
「何であの方が呼ばれてワタクシは呼ばれませんでしたのっ……!? こんなにも美しい顔だと言うのにっ……!」
「……ああ」
何の事かと思えば。体験入学で中学生の引率役に呼ばれなかった事を根に持ってんのか。確かに学年から見た目が良い男女を選んでたっぽいもんな。や、それ差し引いてもこのキャラじゃ厳しくね? めっちゃ
見下
しそうじゃん。夏川が選ばれるのは順当だったな。うん、敵じゃない敵じゃない。だって女神だもん。
「あれですよ。クロディーヌさんのお手を煩わせるわけにはいかなかったんじゃないですかね。ほら、中学生とか何やりだすかわかんないし」
「そん──!? そ、そうなのかしら……? って、気安くワタクシのミドルネー厶を呼ばないでいただけます!?」
「あ、えっと……何て呼べば?」
「東雲女史と!そう敬いなさい!」
「おっけーです。東雲女子」
西校舎では女子を“女子”って呼ぶのか……すげぇ斬新だな。分かり切ってる性別をわざわざ呼ぶって失礼な気がしなくもないけど。確かに女子って男子のこと“男子”って呼んだりするもんな。あれ敬われてたんだ……全然知らなかったわ。
「それで? 平野はどうしてここへ?」
「うす。所用で生徒会室へ向かおうと」
「せっ、生徒会室……!?」
「えっ」
あれ、何か急に表情が暗く………俺何かマズいこと言った? 生徒会室と言えば…………そういや、東雲女子って結城先輩の許嫁とか何とか言ってたっけ? おいマジかよ俺の義兄説が早くも消えちゃったじゃん。家の都合とか覆しようがねぇもんな……毎日結城先輩ん
家
のメシ食えるとか羨ましいぞこの
女子
!(尊敬)
「そう………早く行きなさいな」
「あ、はい……」
俺の強い妬みとは裏腹に突き放すように去って行く東雲女子。背中からしょんぼりした感じが伝わって来る。そういや今日は一人なんだな。生徒会室前ならともかく、何でもないときは取り巻きみたいなのが居るんじゃなかったっけ? 何かあったとか……。
「………」
いや、まぁ……どうでもいっか。