Yumemiru Danshi wa Genjitsushugisha RAW - chapter (36)
親友は語る
今までを振り返れば夏川のいい加減にしろと言わんばかりの顔が何度も思い浮かぶ。怒ってるっつーよりげんなりしてんな……やっぱそんだけ俺の事が煩わしかったんだろ。感情的な夏川と言えばそんな場面が一番最初に思い浮かぶ。
でも今日の一日を通して目にした夏川は新鮮だった。今までに無いくらいストレートにぶつけられた怒声はもう何つーか一周回ってデトックス効果がありそうだった。あらやだ……これが私?
「まぁ確かに。何か様子がおかしい気がしなくもなかったけど。昼のやつとかアレ何だったの?」
「……」
「あ、あー……背中痛かったなぁ……」
「うっ……!」
夏川の気まずそうな顔を見た感じだとやっぱり何か事情があるっぽい。しかもあんまり俺に話したくない感じのやつくさいな。匂う、匂うよ。匂わせて。
「あー……えっとね?さじょっち」
「ちょ、ちょっと待って!」
話そうとする芦田を慌てて止める夏川。え?そんなに話したくないやつなの?だったら別に無理してまで話してくれなくてもいいっつーか。別に俺も鬼じゃないし?夏川の迷惑にならないんなら別に知らなくても良いんだけどな……。迷惑かけられる分にはウェルカム。さぁ来い!
「もうダメだよ、愛ち。さすがに今日のはちょっと目に余ったから」
「わ、悪いとは思ってるわよっ……!で、でも………」
芦田が味方してくれんのは嬉しいんだけどな……そこまで言いたくないって事はやっぱ面倒事?姉貴にしろ夏川にしろ、まあ訳はわかんないとこあるけど俺別に怒ってねぇからな……よしここは一つ、俺から身を引くことで場を収めるという大人な解決をだね?
「あの、別に言わなくて良いけど?」
「……え?」
「言いづらいんだろ?いいよ。俺が古賀や村田と下品な話をしないで姉貴に生意気な口利かなきゃ丸く収まるんだろ?」
そもそもあんな異次元集団に近付こうと思わないし滅多な事が無けりゃ姉貴に生意気な口なんか利けやしねぇよ。夏川とのやり取りを抜きにしても今日はガリガリと身も心も削りまくってるわ。多分もう二度とあんな事起こんねぇんじゃねぇかな……。
結城先輩が言ってたみたいに、これらの原因が俺の振る舞い方に有んのならこれは余波だ余波。たぶん色々と良い方向に変わってってる途中なんだよ。いつまでもズルズルと引きずってくようなもんじゃない。夏川はそんな俺と色んな意味で近かったから、日常の何かが変わってイライラしちゃっただけなんだよきっと。
そう、だから俺がそういう場面でクッションのように柔軟な───
「───お、収まんないわよ!」
「!?」
え、ちょっ……!
お、怒った?怒ったの?俺も芦田も思わず
仰
け反ったんだけど。ヤバくね?まさかこんなに夏川が俺に食い下がる日が来るとは思わなんだ。いつもは即刻離れたがってたのにな。良いだろう、そこまで言うのなら嫌と言うまで付き合ってやろうじゃねぇかっ……そんなこと言ってるから嫌われるんだろうな。
芦田が咎めるような目で夏川を見る。夏川は気まずそうな表情を浮かべると、拗ねたように小さく口を開いた。
「だ、だって……ほっといたらまた変な事するじゃない……」
「可愛い───や、しないから」
「さじょっち、本音。本音隠せてないから。なに今さら平静装ってんの……」
女神?天使?いえ女神でした。何なのこの可愛い反応。俺にどうしろと?3回回ってワンって言や良いのか?やっちゃうよ?お金払ってでもやっちゃうよ?
「変な事って……例えば何だよ?何したら夏川が怒んの」
「そ、それは……」
「や、言いにくいんなら良いんだけど」
「なっ、ちょ、ちょっと……!何なのよさっきから!少しは関心持ちなさいよ!」
「興味ならあるぜ、夏川に」
「なっ、な……」
「お、おお……さじょっちのそれ久々に聴いた」
しまった思わず本音が。
何年もかけて体に染み込んだ癖がそう簡単に抜けるわけがないんだよなぁ……夏川を口説くのなんてもはや条件反射みたいなもんだ。そういう意味でもやっぱ俺は距離を置いた方が良いのかね……だからって疎遠になるのも嫌だし。こういう時の引き際ってこんな難しいんだな。今んとこ全然慎ましい振る舞いできてなくね?
稲富
先輩とか俺身を引いたのに結局ガッツリ話したし。アタシ困っちゃうっ。
やっちまった感を受け入れつついつもの罵声を待つ。まあ元々夏川に関しちゃ俺が悪いもんなぁ……。
「な、なら───」
「へ……?」
お、おん……?な、何か思ってた反応と違うぞ。前みたいにうんざりした顔になって俺をキモいキモいしてからお手手キレイキレイすんじゃないの?え、何でそんな覚悟決めたような顔を───
「───ならっ……う、
家
に来なさいよ!!」
「…………」
……え?
…………。
………───ッ!!??? ※言葉にならない
「あ、愛ち……さじょっちを殺す気なん……?」
「……? あっ……!?~~っ~~~!!!」
「ちょっ……!2人して身悶えるのやめてくんない!?同席してるアタシが一番恥ずかしいんだけど!?ねぇちょっと!!ねぇ!!!」
◆
我が深層を
蝕
む
淫靡
な誘惑よ、
現
なる
言霊
をもってこの身から消え去りたまえ。ハァアァァ〜っ……!
国語数学英語物理化学歴史現社政経倫理───
「……うしっ、中和」
「何が」
現実にひたすら意識を馳せる事で振り切ったテンションを沈下させる……俺くらいのベテランにもなるとこの程度朝飯前なのさ。今なら大丈夫、どんな夏川の言葉だろうと俺は耐えて───あ、ヤバい、また思い出して───
「………ふひひ」
「うわキモっ……」
「……」
夜のファミレス。そんなローカルな場所でショック療法最強説が誕生した。特に効果的なのはクラスメートの女子による罵声。どんなに意識が飛んでたとしても信じられない早さで現実に引き戻される。代償として目元から数滴の水分を失う。ぐすん。
「いやいや悪い悪い。何か幻聴が聴こえちゃってさ」
「まぁそう言うのも無理はないかもねー……愛ちも紛らわしいこと言ったもんだよ」
「で、何なのさっきの。こうしてる今もシャウト決め込みたいんだけど」
「迷惑だから絶対にやめて」
オゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!
シャウトかと思いきやまさかのデスボイス。声に発せずとも何かしらの部分で暴れないとこの衝動を抑えられない。たとえ夏川のあの誘惑極まりない言葉に特別な意味なんて無くともそれが聴けただけで何つーかかもうっ……ありがたきハピネスっ。
「で、さじょっち。今日の事なんだけどさ」
「え、続けんの?夏川顔隠して伏せちゃってんだけど」
「良いよもう、今の愛ち限界だから。話進まない」
え、何それ。メンタル的な問題でもあんの? 夏川のファンとしてはこんなにも近くに居て放置って心苦しいんだけど。頭撫でちゃダメ? ダメなの? この鬼っ。
「サクッと言っちゃうとね?愛ちはさじょっちを愛ちゃんに紹介したいんだよ」
「へぇ……うん?」
え、だれ……あ、夏川の妹?名前似てるから一瞬解んなかったわ。芦田のネーミングどうなってんのよ。夏川の呼び方とほぼダブってんじゃねーか。愛莉ちゃんだろ愛莉ちゃん……有名なサッカー選手の嫁さんみたいな名前だよな、うん。
……は?
「え、何で?俺みたいにキモくて悪影響与えそうな奴は近付かせないんじゃなかったっけ?」
「もぉ!愛ちが本気でそんな事思ってるわけないじゃん!」
「え?キモくないの?」
「ホントにそうかは別として!」
「やだ何この感情」
何でしっかり否定してくんないのこの子……嬉しいのか悲しいのか分かんないんだけど。え、違うよね?常識人だよな俺?ちゃんとお椀手に持つよ?トイレットペーパーとかホルダーの蓋でちゃんとちぎるよ?手洗った後ちゃんとブオーンするよ?