Yumemiru Danshi wa Genjitsushugisha RAW - chapter (113)
距離感
2学期に入れば文化祭モード。実行委員にとっちゃ既に文化祭が始まってるようなもんなのかもしれない。ここんとこは夏川とついでに佐々木もめっちゃ忙しそうだ。よく見たりはしなかったけど教室に仕事を持ち込んでる感があった。
「やってんなぁ佐々木ィ」
「何やってんだよぉ佐々木ィ」
「ちょっ!?おいこれ他の奴見ちゃ駄目なやつだから!」
山崎とアホみたいな会話をした流れで佐々木にウザ絡みする生徒B、それが俺。フラッとやって来て肩組まれたからそのまま付いてっただけだけど。この絡みはある種の応援でもある。喜んでも良いぞ、佐々木。
俺達の接近を察知した佐々木はバッと書類を机の中に隠して見られないようにしていた。体験入学の時は予算的な書類を扱ってたような気がする。見られて困るもん持っててもおかしくはないか。いやおかしいだろ教室に持ち込むなよ。
「なに忙しいの、妹ちゃんとどうなのええ?」
「ああ?あぁ………仲良くやってるよ」
「じゃかぁしぃんじゃボケッ!!」
「う、うるさいな」
山崎が振り切れてる。きっと夏休みの反動なんだろうな。こういうテンションの奴って夏休みとかよりも学校生活してるときの方が輝いてる節があるから。どうだ参ったかくらえ佐々木───《山崎》! ※必殺技
「文化祭実行委員ってこの時期そんな忙しいのか」
「忙しいってか………まあそうだな、”夏川”と毎日頑張ってるよ」
「………」
小声で夏川の名前をやたらと強調してくる佐々木。これは挑発されてると取って良いんだよな………こ、この野郎っ……夏休み中自分だけ週に何度も夏川と会いやがってッ……!さぞ夏服姿も見慣れた事だろう!未だに直視できねぇよ俺……!
……落ち着け俺。落ち着け。
「………そうかい」
「そうかいってお前───」
「なーなー、なぞなぞ大会ってどんなの出すんだろうなー」
これは現実逃避。佐々木が夏川にアプローチをかけて良い雰囲気になろうとも、夏川がそれで幸せならもはや俺は満足。てかそれで満足しないと俺が今までフラれて来た意味がない。ただ、それを見てるのは
辛
いから、応援もしないし余計な干渉もしないようにする。だからまぁ、せめて俺の居ないところで好きにやってくれよ頼むから。山崎が瞬時に空気変えてくれて助かったな。何も考えてないんだろうけど。
「なぞなぞか。小さい子も来るし、簡単なのが良いんじゃないか?」
「そこはこれから決めるんだろ」
「くっそ難しいの考えようぜ!」
「お前に考え付くならな」
「んだとぉテメェ佐々木!?」
鴻越
高校の文化祭。各クラスごとに出し物をするわけだけど、このC組はなぞなぞ大会に決まった。喫茶店とか劇とかも候補に上がってたけど却下されてた。担任の
大槻
ちゃんいわく、そういったメジャーなものは3年生がやるから多分ボツとのこと。確かに先輩達とカブったら気まずいもんな。他にも衛生面に面倒くさいところがあるからそういうのは1年生は避けたいとの学校からの意向。コンビニでバイトしてた時も食いもんは結構うるさかったからちょっと解るかもしんない。
◆
1ヶ月半ぶりの景色。夏休みはあんまりクラスの女子達と遊べなかったなんて嘆いてた夏川だけど、その分周りの女子も話すネタが溜まってたらしい。合間の時間ができる度に夏川の机を取り囲む様に何人か集まっていた。女子の渦。何あれ吸い込まれたいんだけど。
「───あ、あぅっ………」
ふと
側
を見るとニッコニコの白井さんと
岡本
っちゃんから顔を向けられてる一ノ瀬さんがあわあわしてた。夏休み前まで発してた『テメー近寄んじゃねぇ』オーラも、長い前髪が無くなって大っきな垂れ目が見えるようになったお陰で小動物感しか残らなくなったからな。良いよォッ……!良いよお二人さん……!もっと俺に百合百合しい景色を見せてくれ!
「なーに女の子見てニヤニヤしてんだい」
「うえっ、河井」
「え、うち可愛い?」
「言ってねぇよ」
「これ鉄板ネタね」
俺の後ろの席で話してたバレー部の二人。部活の事を話題にしてたのか、机には何らかのプリントを広げている。河井は普通に俺より背が高くて男勝りな性格だから急に話しかけると“ひぇっ”てなる。芦田いわく、どうやらそう反応されたときの返し方も決まってるみたいだ。こんなんツッコむやん。
「見て見て、一ノ瀬さん。あの子俺が育てたんだ」
「愛ちに言っとくね」
「いくら払えば良いですか」
「ちょうど部活で使うボール一新した方が良いんじゃないかって話してたんだよ」
「言葉のスパイクやめてください」
やだ、
鴻越
の女バレー部強すぎない……?キャプテンさんも始業式でなんか表彰されてたし……あれなの?スポーツできるようになると口も良く回るようになんのか?
「───さ、佐城くんっ……」
「え?」
「ああっ!?」
突然ひしっと背中に何かがくっ付いたかと思ったらそこには一ノ瀬さん。
白井
さんと
岡本
っちゃんの文化系陽キャぶりにてんてこまいらしい。抱き付かれてスリスリされてたもんな……。これ懐いてんの?毎回必死の形相なんだけど。人気度爆上がりしたから仕方ないんだよ一ノ瀬さん。愛莉ちゃんキャンペーン中の夏川に匹敵するんじゃねぇの?
「なにどうしたの一ノ瀬さん、良いじゃん白井さんに
岡本
っちゃん。何か良い感じのノリじゃん」
「ざっくりし過ぎじゃない?ちょ、普通に抱き付いてんだけどさじょっち」
「………ふへ」
「さじょっち!」
「あー!?佐城くんズルい!」
「
深那
ちゃんとイチャイチャとか!」
そう、これは育て親の特権。一ノ瀬さんは夏休みを機に生まれ変わったのだ。つまりそのきっかけを作った俺は育て親。一ノ瀬さんのこれは帰巣本能です。おかえり、我が娘よ。
「さじょっち!!」
「ほぶっ!?」
うぐぐぐッ……まさかのヘッドロックッ……!まあまあ背ぇ高いとはいえ斜め下からの締めは効くッ……!あれっ、でもこの肩甲骨辺りの感触はまさかッ……!?うおおおっ!!全神経集中……!夏服最高!
「ちょっとさじょっち……!なに愛ちの見えるとこでイチャイチャしちゃってんの!」
「ぐむむむッ……!」
耳元で小声で囁かれる。グイッと引かれて余計に首が締まった。でもゾワッてしたんだけど。おかしいな?息が苦しいけど不思議と嫌じゃないのは何でだろうな?って、え?芦田何て言った?夏川が何て……?
「───ちょ、ちょっと何やってるの!?」
「あっ」
教室に響き渡る声。それと同時に首の締め付けが和らいだ。そのまま視線だけで声の方を見ると、夏川が机に手を付いて立ち上がって凄い目でこっちを見てた。凄い目に遭ってんのは俺の方だよ。見てコレ。ちょ、結構な数こっち見てんだけど。
「ほえっ、愛ち」
「く、くっつきすぎよ!」
「おっ」
ズンズンやって来た夏川からグイッと引っ張られて芦田の拘束から抜け出す。俺なの?どっちかっつーとくっ付いて来たの芦田の方なんだけど………ハッ!?夏川が俺の腕を!俺の腕を引っ張ってる!うわあああ間近で夏服!やべぇ視線の逃がし場所っ……んんん二の腕!
「な、夏川……?」
「………」
二の句を紡ぐわけでもなく、俺の腕を引っ張ったままジッと見上げてくる夏川。ちょ、朝に続いて夏川のこの訴えかける様な目は何なの?女子に要らんちょっかい掛けんなって?あれ、もしかしてこれってセクハラ訴えられる5秒前だったりすんの……?
「うわぁ……!夏川さん大胆………」
ちょっ。
いかにも純粋そうな白井さんがキラッキラした目で爆弾を放り込んで来た。ちょ、お願いそういう事言わないでっ……!だって相手は俺だよ?多分これそういやつじゃないんじゃない?気まずくなるだけだからやめて!
「! ち、ちがっ、そういうんじゃっ……!」
「ほ、ほら白井さん?夏川も違うっつってるし?」
「えー?」
えー?なんて言いながら目がキランキランしてる。ちょっと誰かこの子止めてくれませんか。ぽわっぽわしてんじゃないよ!無意識に空気切り裂く感じ
質
悪いから。ほら、夏川さんめっちゃ俺と目ぇ合わさないようにしてるから!お願い誰か助けて!
〜♪〜♪
来た。
「あ、あー何か鳴ったわー」
【アンタ昼って暇?暇だよね】
ナイス姉貴。神。金剛力士。良いタイミングのピンピロリンだった。マナーモード忘れてたなう。内容はともかくマジ感謝だぜ姉貴。今度ソファーでへそ出して寝てたらそっとその辺のタオル掛けてやろう。
「うっわ……さじょっち」
「アンタ……」
「う、うるせぇ……っ」
そこ、バレー部2人。小声でドン引きやめろ。おう?神が味方した俺に背くんか?天罰下すよ?スパイクと同時にバレーボール破裂さすぞ?何それ超格好良いんだけど。先輩差し置いてレギュラー入りできるどころか偉い人に指名されるレベルじゃん。