Yumemiru Danshi wa Genjitsushugisha RAW - chapter (157)
ばか
「はい終わった〜、解・放」
「え〜さじょっち早い! 合わせてよっ」
「そーだそーだ!」
「いとをかしいとをかし──
痛
てっ、シャー芯飛ばして来んな! おい消しゴムから手を離せっ」
古文のプリントを終わらせて背もたれに背中を投げ出すと、後ろで夏川の席に椅子をくっ付けてた芦田が文句を言ひけり。煽ってやると芦田がシャーペンの先からピン、ピンと芯を一ミリ程度爪で折って飛ばして来た。地味に
痛
ぇし首の後ろに当たって制服の中に入って来るし山崎は消しゴムで消そうとしてくるし山崎は家燃やす。
夏川含め、ものの見事に古文の課題を忘れてた三人と一匹。夏川は当然ひと足早く終わらせていて、芦田と一緒にあざとキモい顔を作って「見せて」と
強請
ったらムッとした顔でそっぽを向かれた。芦田は「ちぇ〜」なんて口を尖らせて諦めてたけど、何だろな……心無し、もう少し粘ったら行けてたような気が……もうちょい粘れよ芦田っ……!
俺の席に椅子をくっ付けてた山崎は俺のプリントを引ったくって内容を写し始めた。夏川は「そんなんじゃ覚えられない」なんて理由で見せてくれなかったんだろうけど、山崎は良いや。アバダ・ケダブラ。
「外も涼しくなってきたね〜」
「何なら朝ちょっと寒かったしな……ブレザーはちょっと早いし、俺もカーディガン的なの買うかね」
「さじょっちもザキヤマもブレザーからの夏服だったもんね。あたしもバレー部の練習着で使ってるパーカー的なのだったし、買おうかな。愛ちの見てたら可愛いくて」
「そ、そう……?」
「あ! お揃いの欲しい! 今度お店教えて!」
「えぇ……? どこだったかなぁ?」
「スカート隠れるくらい長いやつとか好きなんだよな」
「ザキヤマの趣味じゃん、絶対にヤ。彼女に着てもらえば?」
「や、あの………彼女居ないんすけど」
うぐっ……何故か俺にもダメージが……。彼女居ないのに彼女居る前提で話進められるとか拷問だろ……。まぁ、山崎は性格だけで損してるタイプだからな。中身が残念とお下劣の二点セットなんだわ。自分の性癖とか女子の前でサラッと言うべきじゃない。ちなみにスカートが隠れるくらい長いやつは私も好きです。ライブ配信してくれたら投資(※投げ銭)もやぶさかではないレベル。
秋物の制服、かぁ……。夏川のカーディガン姿可愛いんだよな。確かメッセージのアイコンがその自撮り姿だ。初めて見た時は速攻で画像保存しに行ってプロテクトされて泣く泣くスクショして拡大表示して歓喜したわ。冷静に思い出すとヤベー奴だな。アイドルでもなく同級生の女子ってのがヤバい。 いや落ち着け、アイドルでもヤバい気がする。
「てか俺が知りたいくらいだわ。メンズのカーディガンってどこに売ってんの」
「アマゾン。ユニクロ」
「うっす」
おかしい……芦田や夏川みたいにワクワク感が無い。こういうのって店探しから楽しむもんじゃねぇの? お求め先が速攻で決まったんだけど。何なら自宅で済んじゃうんだけど。便利で嬉しいんだか悲しいんだかよくわかんねぇな。
「朝は寒かったけど今はちょうど良いよね。今日、外で食べる?」
「あ、良いかも……」
「マジ? 俺達もそうしよっかな」
「え〜、ザキヤマたち騒がしいじゃん〜」
「や、お前らのとこも同じ感じだと思うけど」
一学期みたいに夏川が周りに馴染んで中心的になる、みたいなのは鳴りを潜めたものの、習慣付いたのか一部の女子グループはやや夏川の近くに座って食べるのが日常になってる。別に騒がしくない系の女子でも五、六人も集まれば
姦
しく賑やかになるのは仕方なかった。同じ女子だからか夏川と芦田は特に気になってないみたいだ。俺? 良い匂いがする。
「てかみんな来ると座る場所無くなっちゃうじゃん」
「多くなると注目されそう……」
「ちぇ〜、まぁ俺らも集まり微妙だしな。佐城はどこのグループだかよくわかんねぇし」
「〝グループ〟って言っちゃうとな。用事があったりそのついでに食うのが増えたからなぁ……」
元々は山崎たちと集まりつつ夏川───ひいては芦田グループに絡んでた。そういう意味じゃ元からどっち付かずの感じだな……。実態だけ見ると山崎たちと一緒なんだけど心は夏川組の幹部だったから。今は夏川教の教祖。
俺がどうだろうと野郎連中は集まりが悪い。そもそも食い方がバラバラ。弁当だったりコンビニ飯だったり食堂だったり購買だったり、場所も違ければタイミングも違う。しかも気分で変わったりするからタイミングが合わせられない。合わそうとするほど真面目なやつが居ない。何だかんだ一人で食ったりなんてのは誰でもザラな事だった。一人で食ってる時に白井さんとか斎藤さんとかがもじもじしながら佐々木を誘おうとしてるのを見た時はつらすぎて思わず
有希
ちゃんにメッセージしそうになった。感謝しろよ佐々木、お前が今生きられるのは俺のおかげだ。
「よっしゃ俺もお〜わり! バイビ!」
「あ、ザキヤマずるい!」
「アイツ、やっぱり写すの狙ってやがったな……」
最近はところ構わず「写させて!」なんてうろうろしだすから割とマジでウザがられてるんだよな。さすがに学習したのか今回は言いはしなかったけどやっぱりうぜぇ。さっき夏川がそっぽ向いた時の気持ちがわかったわ。
「いいもんっ、愛ちに解き方教えてもらうから」
「あれ、俺は」
「さじょっちは…………いいや!」
「それ一番傷付く断り方だかんな?」
いつもの図々しさはどうしたよ。〝間違ってそう〟ってはっきり言えよ。俺だってできる事なら夏川に教えてもらいてぇよ。正面から顔見れねぇんだよ。
「えっと………外で食べるの?」
「あ、うーん………さじょっちはどっちが良い?」
「あ、俺今日一ノ瀬さんと食べんだわ」
「えっ……?」
「は……?」
…………え?
返事をすると、二人は俺を見たまま止まった。黙り出すのが怖い。え、なに、そんなに俺が一ノ瀬さんと食うの意外? 知り合いなのは知ってるよな……確かに学校じゃ初めてだけど、バイトしてた時は奥さんからご馳走されて一緒に食べたりしてたんだけど。
「えっと……さじょっち? 一ノ瀬ちゃんと食べるの?」
「ん? うん」
「それは、なに……そういう気分だから?」
「や、気分で『今日はこの子と食べよう』ってならないから。単純に誘われたんだよ。昨日の夜」
野郎ならまだしも気分で女子誘える度胸とか無いから。向こうも複雑だろそんなん。てか普通に拒まれるわ。
「よる………一ノ瀬さんと連絡、取ってるの?」
今度は夏川からの追及。質問じゃなくて〝追及〟って言うとまるで俺が夏川の彼氏みたいな感じになるな………うへへ。てか彼女居たら他の女子と食べるとか絶対しないから。夏川なら尚更。
「連絡ってか……普通にメッセージだけど。夜は結構話したりするな」
「ど、どのくらい?」
「え、どのくらいって?」
「毎日……?」
「いやそんなには………一ノ瀬さんがバイトの日とか」
「ど、どのくらい?」
「な、夏川……?」
「答えた方が身のためだよー、さじょっち」
え、ちょっと持って何この空気? マジで何かちょっと追及されてる感じなんだけど。何で一ノ瀬さんのときだけ? 四ノ宮先輩とかはこんなの無かったじゃん。
「えっと………週四、くらい……?」
「は!? 週四もメッセージし合ってんの!?」
「おいっ、声でかいからっ」
幸い一ノ瀬さんの席は正反対だから良いけど、あまり聞かれたい話じゃない。一ノ瀬さんもまさか誰かに漏れるつもりで俺を誘ったんじゃないだろう。絶対にそういうタイプ。
「ちょっとさじょっちどーゆーことッ……!? 最近グループの発言少ないと思ったら他の子といちゃいちゃしてたワケ!?」
「いちゃいちゃしてねぇよッ……! 大体はバイトの話ばっかだよ! 今日はこんなお客さんが居たとか、店長がこんなこと言ってたとか」
「渉からも、するの……?」
「え、まぁ……」
「何てよ」
「えっと……『変なお客さん来なかった?』とか、『つらくない?』とか」
「パパじゃん! それもうパパじゃん!」
「パパじゃね───パパ、か………」
「ちょっと満更でもなさそうにしてるじゃん!」
や、違うんだよ? これは庇護欲であって別に父性を覚えてるわけじゃなくてね? あくまでこれはバイトの元先輩としての感情であってね? まぁなに、六回生まれ変われるんだったら一回くらい一ノ瀬さんのパパでも良いかなとは思いましたです、はい。
「いや心配するじゃん………ちょっと慣れたとはいえ、あの一ノ瀬さんが接客してんだぞ?」
「……昨日…………ったのに、ばか」
「え、ばか? 昨日──え……?」
「なんでもないわよっ」
「え……」
「やーいバーカバーカ、さじょっちのバーカ」
…………え?