Yumemiru Danshi wa Genjitsushugisha RAW - chapter (30)
妹は厭わない
「ハーゲン食べたい……」
「略すとカッコいいなそれ……」
辛
い時ってチープなもんでも十分幸せだろ?何でわざわざ普通より二ランクくらい上のものを言っちゃうの……安いアイスじゃダメだった?んでもって何でうちの台所のゴミ箱には周期的なスパンでハーゲンの容器が捨ててあんの?俺食ってないんだけど。
ハーゲンの業は深い。そしてスイカバーは幼き日の思い出と懐かしい味を詰め込んだ温かいアイスなのである。アイスのくせにな。もう何年も食ってねぇや。
机で項垂れてるのは芦田。授業中なのに俺の椅子の裏、ひいては俺のケツを間接的にバスバス蹴って暑い暑いと言ってくる。尻が熱くなってきたんだけど。てか足じゃなくてもっと手を使って構って欲しい感じにリア充アピールをですね……先生、この学校にはイジメがあります。ぐすん。
その
後
、自分で買ったカップアイスに付いて来たちっこい
氷嚢
を芦田の背中に放り込んだら強烈なスパイクを頭に食らった。さすがバレー部、床に沈んだよ。
次の授業が始まるまでの合間、一人スマホを
弄
ってると視界の端に影が差し込んだ。意識だけ視界の端に向けると、それが誰だか直ぐに気付いた。
「───ねぇ」
ほう、女神。
降臨
なされたか。制服が夏物になってからこの距離まで近付いたのは初めてだ。くそっ、今すぐ振り向いてガン見したい。でも直視できないっ、目が潰れちゃうから! ※潰れない
「ねぇちょっと!」
「潰れ──え、俺?」
「……ア、アンタよ」
机に手を置かれて気付く。夏川の事だから俺じゃなくて後ろの芦田に用が有るものかと思った。頭ん中で膨らんでた冗談は置いといて夏川の方に体を向ける。くっ、それでも中々の刺激っ……!
「う、うむ……何だ」
「さじょっち、挙動不審」
「夏川、早く用件を言ってくれ。俺の体が持たない」
「私は殺虫剤じゃないわ」
「俺は虫じゃねぇよ……」
常識的なツッコミかと思ったら中々の鋭さを持っていた。キレッキレで草。どうやったらそんな冷静に人を虫扱いできるん?
装
うにしてももうちょっとわざとらしさを出してこれは冗談なんだと……え、装ってない?もういい、ガン見する。
「……560点だな」
「じゃあアンタは49点ね」
「あの……あと1点くらい………」
ギリギリ殺しにかかってるんだよなぁ……普通ギリギリ生かす方にしない?急ブレーキかけたら崖ギリギリで止まりそうだったけどやっぱり落ちちゃったパターン。おいちょっと何クスリと笑ってんだよチクショウ可愛いな……六〇〇点。
「まあ良いや。それで?どした夏川」
「へっ……!?」
「……?」
女神の笑顔が一変。ハッとした顔になって何やらあたふたし始めた。えーっと……?何かタイミングミスったかな……俺が黙ってりゃずっと夏川クスクス笑ってただけだもんな。泳がせてたらずっと見れた……くそぅ。
「えっと、夏川……?」
「えと、あの……ア、アンタさ、その……」
「うん」
どうも落ち着かない様子の夏川。そんな夏川を
邪
な心で見ちゃう俺より挙動不審になってる。いったいなに──んんッ!?何か夏川の顔赤くなってきてない!?どういう事!?どういう事なのコレ!?
「このあと───その……うち、が、えっと………」
「……」
「う、う、う………」
「……???」
いよいよ訳が分からなくなってきた。気が付けば首を傾げて察しようとする自分が居た。いや待て、もっと考えるんだ俺。夏川が俺に伝えようとしてる事。俺ならできるっ、夏川歴何年だと思ってるんだよ……!わからない事なんて何もねぇ!この真実……解き明かしてみせる!
「───き、きもい」
「カハッ……」
「愛ち!?」
「あ、ちがっ──」
「さじょっちィ!?息してる!?死んでないよね!?」
意識が遠のいて行くのが分かる。短い人生だったな……心残りがあるとすりゃ俺の部屋のパソコンだ。俺の身と連動して爆発でもしてくんねぇかな。それなら心置きなく地獄でも何でも旅行しに行けるぜ。え、天国?俺が行っちゃっても良いんですか神様!?
「ちょ、ちょっと愛ち……!さじょっちだって一応ヒトなんだよ!?」
「いや
歴
としたヒトだから。一応って何だよ」
聞き捨てならない言葉が聞こえて思わず息を吹き返した。こいつ何なの?人を真顔にさせる天才かよ。何でそんなに『フォローしてやったぜ!』って顔できんの。ふふんじゃねぇ、おいドヤ顔やめろ。
「夏川、もうゆるして……迷惑かけないから」
「だ、誰も迷惑なんて言ってないじゃない……」
え、違うの?てっきり今までの報復をしにわざわざ俺の前まで来たのかと……え?もしかしてさっきの〝キモい〟ってご褒美のつもりだったとか?だとしたら俺もう生きていける気がしないんだけど。耐えられないよ……。
「そ、その……」
「………」
じゃあ何なのと言いたい気持ちをグッと抑え、ここはジッと何も言わずに夏川の言葉を待ってみる。冗談抜きに耳を傾けてればいつか聴く事ができんだろ。鼻の下が伸びそうになるのを我慢してると、夏川が俺を見てウッ、とした顔で一、二歩後ずさった。
「……これは死ねばいいのか?」
「小声で何呟いてんの!ちょっと愛ちー!?」
「わっ、わっ!?ちょっと圭……!」
勢い良く立ち上がった芦田。夏川の両肩を前から掴むと、そのまま押し込んで廊下へとドロップアウトしてった。何やら芦田が大きめの声で何かを言い、夏川が慌ててる声が聴こえる。いったい何が起こってんのかね。
「いったい何が起こってんだ?」
「……え、佐々木……?佐々木じゃねぇか!」
「何だよその超久しぶりに会った昔の同級生みたいなノリは……」
佐々木に限らず、最近は目立たないように徹してたから男同士で馬鹿やる事も少なくなったな。特に山崎、しばらく話してないだけで自分があの頃より賢くなってるような気がする。アイツの影響どんだけ絶大なの……。
「夏になって最近はサッカー部大変そうだよな。山崎とは馬鹿やってんの?」
「俺をアイツと一括りにすんなよな。不本意だ」
「山崎きゅん……」
可哀想な山崎。仲の良い佐々木にまでこんなことを言われる始末。本当に哀れ……なんて思ったけど、姉貴に夏川に芦田に、最近の色々を考えたら俺の方が圧倒的に可哀想だな。謙虚に普通を自負してんのに何でヒト以下に扱われんだろ……。アイアム霊長類。俺はゴリラと同じ。
「佐城」
「ん……?」
「愛莉ちゃん、可愛かったぞ」
「なん、だと……?」
………あ、夏川の妹か。一瞬誰かと思った。佐々木がカッコつけて言うから付き合った彼女を別の意味で可愛がったのかと思っちまったよ。てかコイツ彼女居ないの?普通にスポーツ系イケメンなんだけど。俺がコイツの顔だったらもう、それはもう自重しないんだけど!?
オーバーリアクションをとってると俺のスマホに何やらメッセージが届いた。んだよいったいって……佐々木?
佐々木が夏川の妹とのツーショット写真を送って来た。おー、よく懐いてんじゃん、さすが実のお兄ちゃんやってるだけあるじゃんか。しかも愛莉ちゃんは可愛いと来た。夏川に負けず劣らずの美人になるに違いない。
成る程ね、そう来る……。
「有希ちゃんにチクってやる」
「あっ!馬鹿おま、それだけはやめろ!おい保存するんじゃない!」
「自分の妹のブラコンぶりを見誤ったな佐々木ィ!有希ちゃんはお前のためなら俺や山崎ともメッセージ交換する生粋のアレだぞ!」
「あ……あぁあ………!」
や、ふざけたの俺からだけどそんなに?そんな虐めるために告げ口したわけじゃないんだけど。だって可愛いじゃんブラコン。俺も有希ちゃんみたいな可愛い妹が欲しかったよ、夜とかベッドに潜り込まれたい。あ、返信来た。
【お写真ありがとうございます。私も幼女になります】
ほーん、あ、そう。幼女にな───んんん?
どういうことかな?アポトキシン何とかでも呑むの?確か中学生とか言ってなかったっけ?呑んだら幼女どころか赤ん坊にまで戻りそうだな……そんな体でハキハキ喋られたら親も裸足で逃げ出しそう。
よく分からんけど佐々木には家族会議が開かれるレベルの何かが起こりそうだ。割と洒落にならないやつ。お気付きですか?彼の妹はそういう子です。