Yumemiru Danshi wa Genjitsushugisha RAW - chapter (31)
山崎は間違える
佐々木が社会的に死ぬフラグが立ち、昼休みになると俺は姉貴に
屠
られるフラグ(※無条件)が立つ。夏川と芦田もどっか行ったし、今日も仕事だよっこらせっと起き上がると、ちょうど俺のスマホにメッセージが届いた。
【今日はいい】
え、良いの?それは生徒会室に行かなくて良いと言ってんのか、今日というこの日を喜んでるのかどっちなんだろう……絶対に前者ですね、はい。
そういや週末から今日にかけてあんまり姉貴と話してないな。正直お互いに私生活には干渉しないからな……塾に行ってたっぽい空気はあったけど。家にあんまり居なかったのは確かだ。こんなに話さないのも珍しい……。
「よう佐城!席替えしてからあんま喋んなくなったじゃねぇか!」
「山崎」
やせいのヤマザキがとびだしてきた!相変わらずテンションの高い奴だ。前はちょっと俺とキャラが被ってて謎の対抗心を燃やしたもんだ。一番
解
んないのがコイツも何故か対抗心を燃やして来た事。たぶん負けず嫌いってだけの理由なんだなって、何となく前から気付いてた。
佐々木はイケメン、そして実は顔だけなら山崎も中々のイケメンっていう。でもモテるかどうかは普段からの態度も大きく関わって来るっつーのを山崎が証明してくれた。不思議かな、今こうして話しているだけで少しずつIQが削られて行ってる気がする。
「端っこだもんなお前ー。やっぱ仲良いヤツが近くに居ないと黙るしかないよなー」
「お前と仲良い奴って誰だよ?」
「バッカお前舐めんなよ?俺ぐらいになると周りの女子が寄って来んだよ。最近じゃ古賀とあんな話やこんな話をだな……」
「は?お前、古賀は……」
古賀。このクラスの中でもあんまり逆らえない系の女子だ。女子の中じゃ小柄な方だけどテニス部でこんがり焼けた肌と
傍若無人
とも言える空気の読めなさを武器にして周囲を威圧するタイプの奴。たぶん山崎は女子バスケの村田繋がりで話すようになったんだろうな。
このクラスに限った話じゃないけど、どんな進学校でも男に限らずヤンチャ系の層は必ず居るもんなんだよな。『今度〇〇校の彼とヤるんだー』って大声で喋っちゃう女子。近っぱの席でその彼とやらと致してる最中の話を大声で喋んのはマジでやめてくんないもんかね。
いっつも脳内ピンク色の男子高校生でさえあの層は敬遠しがちだ。ああいうのに近付くには同じくヤンチャ系だったり、スポーツ得意系じゃないといけない。山崎はその
綱
をハイテンションで渡ってる感じだな。ってかよく考えたらアイツ見た目と運動神経のスペックが俺より遥かに高いんだけどどーゆーこと?
「───うん?村田も居るぜ?何なら佐城も一緒に飯食うか?」
「は?」
朝に買った菓子パン入りのビニール袋を
提
げてる俺の肩に腕を回して、山崎はこことは真反対の窓際でギャハハと
猥談
を繰り広げてる古賀達の方に俺を引っ張って行く。うっわ、
胡座
かいたり大股広げて座ってっからもう見えちゃってんだよなぁ……ああいうのって何でかあんまりエロさを感じないんだよ。
「よー、コイツも入るぜ」
「あっれー!?佐城のお出ましじゃん!なぁに?アンタも交ざりたいの?」
「最近大人しいよねー、なに陰キャラ?」
初っ端から飛ばしまくりじゃねぇか!こういう奴らを見てるだけで女子に対する理想が根こそぎ吹っ飛ばされてくんだけど。夏川とか芦田にもこういう部分あるんだなって思うと心の底から何かが冷めてく自分が居る。ま、現実なんてそんなもんだろ。
大和撫子
?何それ食えんの?
「陰キャラだよ陰キャラ、俺の席見てみろ」
「キャハハッ!一番前!端っこ!ウケる!」
そしてそんなヤンチャ系の煽りを返しちゃう俺って何なの。不思議な事に、クラスじゃある程度の発言権を得るとそれだけで向こうもノッてくれるんだ。マジ訳わからんウケる。つまり山崎には山崎の、俺には俺のやり方があるって事だ。
「ってか最近ヤバくない?夏川ちゃんとどうなの?」
「最近見ないよねー、夫婦喧嘩」
「山崎、よくも奪ってくれたな」
「奪ってねぇよ!?」
程よくボケて会話の内容をセーフラインに軌道修正。一言で空気を変えられるとちょっと自分が話の上手い奴って思っちゃうな。でも単純に笑いの沸点が低いだけかも、コイツらって何にでもウケちゃうから。
「てかどこまで行ったん?」
「そうそ、中学からあんな関係だったんっしょ?もうヤッた?ヤッた?」
一分も持たなかったよ。何だよコイツら下ネタ好き過ぎんだろ。男だってそんなスパン短く考え続けねぇぞ。もう女子としてすら見れないんだけど。
「アホか、家すら知らねぇわ」
「え、うっそ夏川さん
家
知らないの!?旦那失格じゃない!?」
「何だよ全然進んでねぇじゃん魅力無いんじゃないのー?」
言いたい放題だなコイツら。逆に自分に魅力があるとでも思ってんのか……ガニ股が似合うようになったら女として終わりだな。コイツらは今の姿を知られている限りまともな男と付き合うなんて無理だろうな。下世話な話、こんな色んな意味で黒ずんだ奴を誰が好きになるんだよごめんなさいマジですみません。
「まぁな、佐城って、顔はあんまりだからな」
「確かにー、これじゃウチも無理かなー」
は?山崎テメェ今何つったコラ。しばらく話さねぇうちに随分調子に乗るようになったじゃねぇの。そういう事は誰かに告白されたとか自慢できるようになってから───……や、コイツ言わないだけで実はありそうだな。顔の良いバスケ部男子ってもう女子にとっちゃステータスでしかないもんな。モテてるかどうかは別にして、そういった意味で付き合ってほしいってのは普通にあんじゃねぇの?
「じゃあそういう山崎はどうなんだよ?」
「そりゃ〜もうモテてんぞ!結構告られたりするしな!」
「ちなみに?例えば誰?言えよオイコラ」
「佐城キレたし!ウケんだけど!」
「え、てかホント誰?マジ気になるんだけど」
ええおい?さぁキリキリ吐けよ。このメンツだぜ?黙ったままここから立ち去れると思うなよ山崎。お前の回答次第で今日から古賀達から短小扱いだかんな。マジだぞ?俺だったら普通に涙で枕濡らすからな?
「聞いて驚くなよ?A組の奥村だ」
「おくむら……村田、ちなみにその女子ってどんな子?」
「え?〇〇〇〇」
「まぁ本気じゃないだろーね」
もう口に出すのすら
憚
られるんだけど……類が友を呼び過ぎなんだよ。一応進学校だよここ?ちょっと
四ノ宮
先輩?全くこの学校の風紀守れてないんですけど。うちのクラスの委員長とかもうとっくに見切りつけて無関心っすわ。頑張って!
飯星
さん!
「………」
山崎黙っちゃったよ。おい喋ってくれ頼むから。俺がこの二人の相手し続けるとかマジで嫌だから。話すことなんか夏川の事しかねぇよ……あるじゃねぇか。でもこんな奴らに布教したくないなぁ……。
「まぁだよね。
佐城
は?この前のコとか」
「は?」
「この前のコだよ。ほら、あの茶髪の」
……もしかして藍沢のこと?ねぇよ普通に考えて。俺とどうこうなるわけねぇじゃん。
寧
ろ最初は藍沢も古賀達みたいな感じなのかと思ったわ。でも今は違う、今は俺と心の同志だ……!ナイスシュークリームだったぞ藍沢!夏川喜んでた!
同志を裏切るわけにはいかない。コイツらの顔を見る限りじゃ藍沢はそういう系なんだと思ってるに違いない。でも実際は俺の夏川に対する信仰心にしっかりと困惑してくれる良い子だったぞ。
「藍沢はな───」
「渉!」
ちょっ、藍沢へのフォローが……!おいどうすんだよ!せっかくフォローしようとしたのにできなかったじゃんか!藍沢は入学した頃から有村先輩に一途なんだよ!もう廊下を歩いてはベタベタベタベタ(※芦田談)と……あれ何でだろ、言ったら余計に藍沢の評判が悪化する気がする。
ってか話遮ったやつ誰だ。これが原因で藍沢の悪い噂が広がったらどうしてくれる。あのカップル邪魔すんのは
正直悪
でしかねぇぞ。
「ちょっと渉……!!」
「なん、だ……───ぇ?」
成敗してくれる!なんて意気込みで振り返ると、そこには鬼のような
形相
の夏川が居た。まさか俺以上に怒りを見せてる奴がそこに居るなんて思ってなかったわけで……自分の喉の奥から男とは思えないくらい裏返った声が出た。え、や、何でそんなあからさまに怒ってますの……?
「こっち来なさい!!!」
「え、おいッ!?ちょっ、急に引っ張んッ……!」
有無を言わさぬ強引さに目の前の景色も頭の中もごちゃごちゃになった。強く引っ張られて軽く教卓に腰をぶつけたけど何だかそれどころじゃない気がした。夏川のデカい声がまだ頭の中で反響している。一体何なの……?
「ちょっ───とっとっとグヘッ!?」
廊下に連れ出され、上の階に通じる階段の前を通り過ぎたと思ったら閉じてる音楽室の前にグォンと放り投げられた。迫る扉にビビって何とか体勢を整えようとしたけど間に合わず、激しい衝撃と一緒に漫画のような『ビターン!』なんて音が聞こえた。なに……?いったい何が起こったの?
頑丈な防音扉を背にゆっくりと腰から床に落ちる。目の前にはやっぱり何故か怒ってる様子の夏川。え!?え!?何で何で!?
「ハァッ……ハァッ…………」
ええっ、肩震わせながら息切らしてる……!なに俺死ぬの?これからとんでもない事されんの?マジかよ宜しくお願いします───じゃねぇな本当にヤバそう。
お、落ち着け俺……!自分がした事を考えるんだ!夏川が怒っている理由……きっと俺の今までの行動にあるはずッ……!
───あの!過去何ヶ月も心当たりがあり過ぎてどれか分かんないんですけど!