Yumemiru Danshi wa Genjitsushugisha RAW - chapter (48)
搦め手の委員長
期末試験の結果も分かり後は夏休みを待つだけ。俺の気分は上がりっ放しなう。それにしても試験結果って家族に報告しないとダメすかねぇ……前回は良い結果だったから自慢気に見せたけど……。
……うん、出来るだけ黙ってよっ。
昼。今日は珍しく弁当を買った。ていうのも夏川や芦田にもっとマシなもん食ったらと言われたからだ。何だよ良いじゃん菓子パン……安いし旨いじゃん。それに別に体に悪いもんじゃなくない?
トイレから戻って来ると教室の中央──夏川の元に向かう。この前、愛莉ちゃんに会いに行った時に勢い余って御相伴に与る宣言をしてしまったからだ。別にもてなされるわけじゃねぇんだけどな。
───あの日の翌日。
『あれ?さじょっちどこ行くの?』
『んぁ?』
青と白の牛乳印のコンビニで買った昼飯を引っ
提
げて中庭のベンチに向かおうとすると、夏川の元に行こうとする芦田に捕まった。何か用かという目線を向けると、芦田は無言で夏川をこっそりと指で差した。指された方を向いて見ると、
『あ──………』
目が合った。直ぐに逸らされた。気まずさ感じた。思い出した。
汗噴出したよね。そう言えばつい先日に何か言っちゃった気がするって直ぐに思ったよね。まさか俺が夏川に関する事で忘れる日が来るなんて自己嫌悪だったよね。謎の悔しさで無意識に奥歯で舌噛んでたわ。
『……あ?』
『あっははー、やっぱ愛ちモテんだね』
『……』
白井さん他女子数人──を引き連れて空いた席に座り、夏川に話しかける佐々木。それを見てああやっぱ本当に好きなんだなって思った。この胸の内に湧く冷え冷えとした感情も考えるまでもなく理解できたわ。それを自覚して、自分自身で消化できるようになっただけまだマシな方か。
『ほら! 約束したんでしょ! さじょっち!』
『お前ら頭の中リンクしてんの? 何で知ってんだよ……』
夏川への言動は芦田にも伝わってる事が多い。まぁ夏川の親友だしな、会話の中で割と出し惜しみなく言っちゃってるのかもしれない。芦田に対しては全幅の信頼を寄せてるっぽいし。くっ、今ほど女子になりたいと思った事はない……。佐々木は俺より芦田の方が強敵なんじゃねぇのなんて思いつつ、俺らもその取り巻きに加わった。
夏川の家に上がった次の日からその辺で飯を食ったり食わなかったりしている。毎日じゃない理由は、あまりまた近付きすぎると「あ、まーた付き纏ってるわー」なんて思われて夏川ごと敬遠されちゃうからだ。
──そんなこんなでまともな栄養バランスを片手に教室の中央に向かう。中庭側の窓際に座る村田や古賀が居心地悪そうにしてるのを内心ほくそ笑んでからその所帯じみた場所の末端を位置取った。夏川の時代来てんな……もう人気過ぎて夏川とか芦田に近付けないんだけど。
「あ、佐城くん」
「うす」
飯
星
さん。クラス委員長を務める何つーか普通っぽい女子。個人的には結構ポイント高い。口で言っても聞かないような下品な奴らはさっさと切り捨てる竹を割ったような性格と、自分から率先して周囲の生徒と関わってゆっくりと空気作りしていく感じに委員長としての才能を感じる。最近は特にそれを感じるようになった。
別に特別可愛いとか八方美人ってわけでもなさそうなんだけどな。場の空気を上手い事コントロールして村田や古賀みたいな奴らに好き勝手させない感じ。外堀から埋めて行く感じがゾワっとする。噂じゃ委員長に認められた女子のみが居るメッセージグループがあるとか無いとか……いやはや、恐ろしい。
「何か……大所帯だな」
「あー、今愛莉ちゃんブームだから」
「え?」
「今日なの、第2回」
愛莉ちゃんを可愛いがりに行くっていうあれか。って事は佐々木がお呼ばれしたのが第一回ってわけか。フフフ、実はそれ第三回なんですよ奥さん。第二回はもう開かれてるんですご存じ? VIPですよVIP。
「一応私も行くし。会いに行けるなら会いたいもん」
「え、そんな感じ?」
「あの〝夏川さんの妹〟って言うのも人気の理由よね。それをきっかけに夏川さんと仲良くなりたい子も居るんだよ」
「良きかな」
ジャーナリストばりの分析。運営側かよ……まさか俺とは別で夏川友達百人大作戦──あれ、こんな名前だったっけ? ──をひっそりと進めている奴が居るとは思わなかった。たぶん飯星さん的には夏川の交友関係だけってわけじゃないんだろうけど。
「クラスの雰囲気作りってところか」
「別にそんな凄いものじゃないかな。ただ、変なのがクラスの中心的存在になって居心地悪くなるのが嫌なだけ」
「………」
笑顔で言うあたりに謎の怖さがある。夏川に猛烈アプローチをかけて道化と化し、村田や古賀とも普通に接してた俺は果たして〝どちら側〟なのか…………深く考えるのはやめよ、心臓に悪い。
「佐城くんは? 最近夏川さんと喋らなかったり喋ったりするけど」
それ超普通の事じゃね? 知り合いと喋ったり喋らなかったりする事の何がおかしいの? 普通とは逆の順番で訊かれて何となーく言いたい事は分かったけどニホンゴワッカリマセーン。
「ハッハハ、この雰囲気にやられて近付きづらくなったってところ?」
「うっそだぁ、絶対何かあったでしょ。みんなそう思ってる」
「マジかよ」
いやまぁそう思うわな。あんなしつこく纏わり付いてたし。逆に今まで何も訊かれなかった事に妙な腫れ物感を覚えるわ。絶対に邪推されてるよな……〝フラれた〟なんてのは当たり前として……後は何? 警察沙汰になったらしいよーとか? やだヤバくない?
「俺は潔白ですよ」
「突然なに」
決して変な事に手は染めておりませんとも、ええ。髪は染めたけど。そういや黒髪のウケ結構良かったんだよな。SNSばりにみんなから〝イイね!〟もらえたんだけど。軽薄そうな感じが薄くなったとか。〝無くなった〟とは言ってくんねぇんだよな。そもそも軽薄そうに見えてたんか……そこそこ一途な方だと思ってたんだけど。てか高校生的に茶髪の方がイマドキ感あって良いんじゃないの?
や、んな事より夏川だよ。いよいよ本領発揮か……纏わり付かなくなっただけでこんな事になるとは。ここ最近は夏川も何だか明るくて機嫌良いし、ぐんッと先に遠のいたような気がする。これが女神本来の力という事かっ、恐ろしい子ッ……!
「でもお父さん嬉しいよ」
「え?」
良いね、この距離感最高。女心なんて解んないし、夏川にしても芦田にしても、どんだけ考えて接しても怒らせたりする時あるからな。こういうちょっと離れたとこから見て応援して楽しむのが一番平和だ。あ、笑った可愛い。
「放課後、楽しめると良いな。夏川にしても、委員長にしても」
「え? う、うん。まぁ、実は結構楽しみにしてるの。白井さんや岡本さんが興奮しながら可愛かったって力説してたから」
「そうだな。でも可愛いだけじゃなくて結構体力も──いや、もうとにかく可愛いだろうな。そうに決まってる、うん」
──っぶねぇ……余計な事言いそうになったわ。夏川、妹の事になるとマジになるからな。余計な先入観与えて拗らせないようにしないと。あんなパワフルな部分、言わなけりゃ誰も分かんないだろうしな。飛び込むのは俺くらいっつってたし。
意外にも、飯星さんは結構話せるタイプの女子だった。
◆
「ゲーム……カラオケ………」
会話が盛り上がってたりカラオケで盛り上がってたりゲームしてたり……気が付いたらめっちゃトイレに行きたくなってた時ってあるよね。飯星さんに悟られないようにすんの苦労したわ。
「──ん?」
廊下を歩いてると、前から三人の女子が歩いて来るのが見えた。いつもならそんなに目を引かない筈なんだけど、彼女たちの一人があまりにも異彩を放ってて思わず目を向けてしまった。近付いたところで、先頭を歩くど派手な金髪の女子が見覚えのある生徒である事が分かった。確か、前に生徒会室をこそこそと覗き込んでた子だ。生徒会長こと結城先輩の許嫁だとかそうじゃないとか。
「やっぱりコチラは庶民的ね。田舎染みてるというか、何だか
私
たちの方より騒がしい気がするわ」
「仕方ないよ、こっちは〝一般家庭〟の生徒ばかりなんだから」
俺の事は気にしてないのか、三人はすれ違うと遠ざかって行く。あれは……うちの教室の方? まぁ良いや、とにかく今はトイレを済まそう。膀胱の辺りにパンチくらったらたぶん一発でジョワジョワしちゃう。早急に済ませなければ。