Yumemiru Danshi wa Genjitsushugisha RAW - chapter (82)
夢より夢
芦田が肩を弾ませながら帰って行く後ろ姿が忘れられない。夏川のあまり見られない一面に俺は高低差あり過ぎて耳キーンなってるってのに、どうしてアイツは部活後とは思えない
溌剌
さを発揮できるんだろう。疑問が多い、現実感が湧かない、今でも夢を見てるような気分だ。
夏川とまた二人きりになった今を含めて。
「圭……何だか興奮してたわね」
誰のせいだと思ってるんですか?俺の平常心も現在進行形でガリガリ削られてるんですけど?こちとら推しのアイドルと二人きりで歩いてる気分なんだけど。今年の運全部使い果たしたんじゃない?明日からちゃんと生きていける?
「夏川も大概だよ。芦田に飛び付くとこなんて初めて見た」
「そ、それはっ……愛莉のマネよ」
何それ可愛い。
今日何度目の可愛さかはわかんないけど冷静に考えたら今に始まった事じゃなかったわ。久々に会って忘れてたけど夏川はいつも可愛い(常識)。最近美人慣れしたんじゃねぇかって思ってたけど確信した。
男は永遠に美人に慣れない。
「……愛莉ちゃんと言えばさ、芦田は結構早いうちに会わせてたり?」
「うん、5月に他のバレー部の子達と一緒に」
「バレー部かぁ。芦田以外のバレー部と縁ねぇなぁ」
「全員揃ったら凄いわよ。圭が一番背小さいから」
「マジかよ……」
芦田って俺の目線くらいの背だよな……流石バレー部、試合では大いに役立ちそうなアドバンテージだ。そういや芦田がバレーしてるとこ見たことねぇな。男一人で見に行けるわけないんだけどさ。この前休憩中の芦田に偶然会ったら「汗びっしょりで臭うから近付かないで!」ってダッシュで逃げられたし。
「愛莉に私つながりの誰かを会わせたのはその時が初めてね」
「喜んでた?」
「みんなに抱っこされてポカンってしてたわ。ずっと『だぁれ?』って顔してたの。可愛かったな……」
「っ……」
愛莉ちゃんの話になると夏川は俺相手でもよく喋る。それは嬉しいし喜ばしいしお賽銭投げたいくらいなんだけど、会話の中で時々愛莉ちゃんの声真似をするのが反則的。美少女が幼児の真似をするとことか見ちゃいけないものを見てる気分だ。思春期がッ……俺の思春期が刺激されるんだよっ!
「? どうしたの?」
「い、いや何でもない」
夏川は自覚してないというか……いや、だから良いのか? 自分の可愛さ度合いを完璧に把握してるとかちょっと嫌だし……いつかの
東雲
ナントカとかいうパッキン少女みたいに高飛車な性格になりそう。それか男を一切寄せ付けないとか。
そうなると愛莉ちゃん心配じゃね? たぶん夏川以上に可愛い可愛い言われてるだろうし。精一杯甘えて寛容に育つか、女王様気質に育つか……うーん、心配。俺が口出すことでもないんだけど。
「愛莉も可愛いけど……渉のお姉さんは? 綺麗だし、小さい頃は可愛いお姉さんだったんじゃないの?」
「綺麗か……? 俺が物心付いた時にはすでにガキ大将だったよ」
「が、ガキ大将ってっ……」
夏川がクスリと笑う。そこから
姉妹
姉弟
きょうだいトークが始まる。愛莉ちゃんの事は夏休み前からトレンドだから正直訊くこともあまり無い。妹ラブの夏川の事だから自分から愛莉ちゃんへの愛を語ってくれるかと思ったけど、話題は割と姉貴についての質問へとシフトした。俺は日頃の恨み
辛
みを愚痴のように語るだけだった。
破顔する夏川。自分の語り口で笑ってくれるのが嬉しくて、気がつけば俺は得意げに数々の逸話を語っていた。情けない話ばっかのような気もしたけどそんな事はどうでも良かった。
歩いてるうちにやってくる十字路。見覚えある道に差し掛かったところで、ハッと自分の置かれた状況に気付いた。俺、夏川と普通に話せてる……? 話しかければ逃げられるのがほとんどだった以前。やっと普通に話す機会があってもしどろもどろで頭真っ白になってた俺が……?
「……」
「あ……私、ここ左」
「おう……そうだな」
まさしく夢のような時間だった。今まで夏川と過ごした中じゃ間違いなく一番の幸せな時間。この時間が終わってほしくない。ついそう思ってしまうような。
別れ際、夏川は少し歩いてから立ち止まると、半分だけこっちを振り向いた。何かを待つように俺を見る。真っ直ぐ向かってくる目線には何か期待が篭っているように思えた。
……何と言えば良い? 『じゃあ俺は真っ直ぐこの道だから』って……? んな分かりきった事言ってどうすんだよ。何でこのタイミングになってこんな緊張するの……。
夏川は何を求めてる……? この状況を作り出したのは俺でも芦田でもない、夏川だ。夏川が望む事……絶対に今までのどっかで話してる。夏川は何て言った?
───ああ、そうだ。
「……んじゃ、また後でメッセージでもするわ」
「うん、また後でね」
これか。ああそうだ、夏川が笑顔だ、これで正しかったんだ。前に付き纏って一緒に帰った時の戸惑いある作り笑顔じゃない。あまりに違う、偽物と本物、視線の交わる時間。五感で感じ取る全てが正解のように思える。
夏川が此方に背中を向けた。顔が見えなくなった瞬間、胸の内で生き返ったかのような安堵感が湧き上がって来た。夏川に対する想いと矛盾し過ぎていて訳が解らなかった。
ただ、この名残惜しさだけはあの頃と変わらなかった。
◆
風呂から上がると、スマホの画面にグループに招待された
旨
の通知が入っていた。おいマジかよと思って慌てて中身を見てみると、どうやら芦田が作って俺と夏川を誘ったようだった。何やら既にグループ名が付いている。
『Kとシスコン達』
喧嘩売ってんのか。
ほぉんシスコン? 言うに事欠いて俺をシスコンと仰るか。夏川はともかくこの俺が? ふっ、笑わせてくれる……姉貴のあられもない姿を見ても無心で居られるぞ俺は。
招待を受けてグループに参加する。
【誰がシスコンだ】
【愛ちは認めたよ?】
【俺シスコンだったわ】
いやぁ忘れてた俺シスコンだったわ。もうヤバい、姉貴の顔直視できないもんね俺。目ぇ合ったら膝ガクガク震えるレベル。気が付けば
頭
を低くしてるし、もうコンプレックスの塊だよね。
え、なに今のやり取り夏川に見られてんの? てか夏川と正当にメッセージやり取りできるの?“正当に”ってやべぇな。どんだけ夏川のこと特別な存在だと思ってんの。
【渉、お姉さんと仲良いじゃん】
お義姉さんだとッ……あ、違った“お姉さん”か。目の錯覚だったわ、俺間違いなく疲れてんな。夏川が少し気安い感じなのは気のせい? メッセージだとこんななのかな……おいおいたまんねぇなテンションぶち上がるぜ。
【晩飯のハンバーグ譲るくらいには仲良いぞ】
【さじょっちとの関係性が一発で見えたよ……】
【(*´꒳`*)】
夏川さんや、帰りの別れる前から薄々気付いてたけど、あなた俺と姉貴の話好きだよね? 何ですかその可愛い顔文字。わざわざ拾って来たの? やだスゴい想像広がる。SNSの可能性無限大だわ。そしてお姉様、これからもどうぞ宜しくお願いします。
【愛莉にも同じ感じだったよね】
【その話詳しく! 愛ち詳しく!】
【待つんだ夏川、ホント待ってほしい】
【やだ】
くッ……何だよこのちょっと幼い感じ! 普段あんまりワガママじゃない女子が裏ではちょっとワガママとか男心くすぐるにも程があんだろ! ベッド、ベッドに行こう。人生で一番足バタバタしたくなってる。
そうする間にも夏川がつらつらと俺が愛莉ちゃんと遊んだ日の事を話して行く。どうやら俺がペコペコと頭を下げて馬に徹する姿がツボだったようだ。
いやいやあの時疲れてないか心配してくれてたじゃないっ……内心笑ってたってこと!? 酷いっ……何でだよ! 何でなんだよッ……何で無性にお馬さん役やりたくなっちゃうの……。
【ほほう……今日の事も有るし、さじょっちって年下好きなのかなぁ?】
【え、愛莉を……?】
なわけねぇだろ。
うわちょっとこれ良くない展開……んや待て、ここはちょっとガチで考えてみよう。実際どうなんだ俺……愛莉ちゃんの事は一先ず置いといて、年下が好きか否か。
そもそも周囲にどんな年下が居るよ? 最近だとまさに笹木さんだな。ずっと年上だと思ってたけど……制服姿を見てから女子大生の印象は薄れたかもしれない。インパクト最強だったからな、頭からあの姿が離れない……。
いやでもどうなの? 年下って分かったから背伸びした少女感あるけどそれを差し引いても大人っぽ過ぎるわ。垢抜けてんもん。頭で分かってても年下感は無い。そもそも生きる世界が違う感じするから〝一般的な年下〟に当てはめるのは違う気がする。
他は……? あれおっかしいな何で
稲富
先輩の顔が浮かんだんだろう、先輩でしょあの人。すっごい、頭の中で知り合いの誰よりも台頭して来てるわ。想像で頭撫でておこう……ちょっと、
三田
先輩邪魔しないでくれますか。
あとは誰だ。
佐々木
の妹の
有希
ちゃんさんか……? 有希ちゃんさんなのか? 有希ちゃんさんどうなの? めっちゃ一途だよね。誰に対してとは言わんけど。俺も妹が居たらあんな感じなのかなー。
……。
【年下ってどんなんだっけ?】
【は?】
【は?】
………は?