Yumemiru Danshi wa Genjitsushugisha RAW - chapter (167)
光と闇のSasaki
お互いに目を合わせて驚いた様子を見せる有希ちゃんと笹木さん。確か歳は同じだったはずだし、どこかで知り合っていてもおかしくはないなと思う。同じ読みの姓だし、その縁もあってお互い印象が強いのかもしれない。
「え、え、ほんとに
有希
ちゃん?」
「
風香
ちゃん……? え、その恰好………」
「ゆ、有希ちゃんこそ、何か、雰囲気が……」
……うん? 何か雲行きが怪しいような……二人とも会えて嬉しい感じじゃないんだけど。恰好に……雰囲気……? 何かおかしいとこある? 俺にとってはどっちもスタンダードなんだけど。
「
一ノ瀬
さん、何か知ってる……?」
「……」
俺の背中から二人を覗き込みながら、ふるふると首を横に振る一ノ瀬さん。不穏な空気を読み取ったのか不安そうな顔で見返して来る。守りたい。父性が止まらん。セノビック与えたい。
「二人とも知り合いだったん?」
「えっ……!? は、はい! 同じ中学で、今は違いますけど去年までは同じクラスだったんです!」
「え……有希ちゃん
美白浜
中学だったの……」
「何ですか
佐城
さんその有り得ないとでも言いたげな顔は? 失礼すぎません? 私が美白浜である事に文句あるんですか? お兄ちゃんの妹なんですよ? 当たり前じゃないですかブッ殺しますよ」
ギンッ、と見開いた目で見上げられた。怖い怖い……今にも斜めがけになってるポーチからスタンガンでも取り出しそうな顔だ。もしくは防犯ブザー。人通り多いこの場所で鳴らされて一瞬で退学まで追い込まれそう。
てか、ええ……有希ちゃん美白浜中学だったの……何か、うん……嫌。純白なイメージが崩れる。笹木さんと同じ感じのJCが集まる花園みたいなイメージだったのに。まさかこんな暗い眼差しのブラコンヤンデレ自称美少女が居ると思わないやん。
「はわわ……有希ちゃんがたくさん喋ってます」
「ちょ、風香ちゃん……!」
俺に凄みを利かせたかと思いきや、笹木さんにじっと見られて慌て出す有希ちゃん。珍しく感情的だ。不思議と黒々しい目からほの暗さが除かれた気がする。珍しい光景だ。
「なに、有希ちゃんって学校じゃあんまり喋んないの」
「はいっ、クーデレな感じです!」
「クーデレ」
「風香ちゃんっ……!」
まさか笹木さんの口からそんな言葉が出るとは思わなかった……俗世に生きる俺に順調に毒されて行ってる気がする。えっ、てか有希ちゃんがクーデレ? ヤンデレの間違いじゃなくて? クール要素ある?
今んとこ俺にとっちゃラブコメ主人公の妹に居そうなブラコンの小生意気な小娘なんだけど。
「え、キャラ作ってんの」
「べ、別に作ってません! ただお兄ちゃん以外に興味が無いだけです!」
「学校の往来で何言ってんだ」
何人かの老若男女からギョッとした目で見られた。しれっと全世代コンプリートしてるし。国民のヤンデレ系妹目指せるな。盗聴器のジャミング装置がバカ売れしそうな時代が来そうだ。一周回ってALSOKの宣伝アンバサダーに選ばれそう。部屋の角に張り付いて目からビームを出すCMなんてどうだろう。
うーん……でもそうか。女子中って事は、学校に居る間は佐々木と無縁なのか。それなら何となく有希ちゃんがヘラってない理由も分かる気がする。佐々木って要素さえ取り除いたら確かに他人に興味が無くて生意気なだけだし。
「ふ、風香ちゃんだって…… 何その恰好……! いつの間にそんな大人っぽい恰好するようになったの? ちょっと前に遊んだときは小学生が着るような───」
「わ、わあぁあ!? ストップです! ストップ!」
慌てて笹木さんが有希ちゃんの言葉を遮って口を塞ごうとする。パッと見、中学生を襲おうとする女子大生に見えなくもなくてヤバい。
有希ちゃんを黙らせた笹木さんはチラチラと一ノ瀬さんの様子を窺う。俺に対する外聞を気にしないのは多分もう色々バレてるからだと思う。体験入学の時にちょっと聞いたし、他にも雑談の中で色々聞いてるからな。でも実際にその姿を見れて居ないのが悔しくて堪らない。誰も居なかったら地団駄踏んでた。
「えっと……」
困惑するような目で一ノ瀬さんが見て来た。どうやら状況があまり理解出来ていないらしい。有希ちゃんなんかは初対面だからな。友達の友達みたいなのが突然現れて困るのも無理はない。多分その出会い方が一番苦手なタイプだと思う。
「笹木さんと有希ちゃんは同じ中学で知り合いなんだけど、お互いの意外な一面を新発見して驚いてるらしい」
「……」
そうなんだ、と言いたげに一ノ瀬さんは二人を見つめる。かく言う俺も有希ちゃんのヤンデレブラコンが通常モードじゃなかった事に驚いた。キミ、普段は瞳に光を宿してるんですね……。
見た感じ、名前で呼び合ってこそいるものの毎日一緒に過ごすような仲ではないらしい。何となく仲良く話せる隣のクラスの女子ってところか。このまま流れで一緒に連れて行くと笹木さんが気を遣うかもしれない。ここは共通の知り合いである俺がどうにかしよう。
「じゃ、笹木さんも合流したとこだし行こっか」
「えっ」
「有希ちゃんは兄貴探すの頑張って。ナンパされたら暗器でもスタンガンでも鎖でも何でも使っていいから」
少し戸惑った顔で笹木さんが俺を見る。
大丈夫、有希ちゃんならきっと一人でもやって行ける。是非とも全力を尽くしてもらいたい。有希ちゃんならきっと法の向こう側まで乗り越えられると思うから───。
俺たちの冒険はこれからだッ……!
「待ってください。逃がしませんよ」
「何でや」
がっしりと腕を掴まれた。普段ならふへへと鼻の下を伸ばす女子からのボディータッチ。何故だか面倒くささと一抹の恐怖感しか湧かなかった。後ろの一言が強すぎる……オーストラリア大陸が頭に浮かんだのは何故だろう。シドニーまで逃避行したら既に現地に先回りしてるとこまで見えた。佐々木、深海なんか良いんじゃないか?
「ここでか弱い女子中学生を一人にしようとするなんて正気ですか? お兄ちゃんなら絶対にそんなことしませんよ? それに、どこに何があるか分からない校舎を一人で闇雲に探すより、佐城さん達に付いて行った方が効率が良いので私も付いて行きます」
「そ、そうですよ佐城先輩! さすがに一人にさせるのは……」
「え? 佐々木の行動把握するために校内のマップ把握してるんじゃないの?」
「お兄ちゃんの行動範囲、そんなに広くないです」
さすがの有希ちゃんでも校内のマップを把握しきれてはいないらしい。そうだよな……バイオハザードだって使うキャラによって全体把握出来なかったりするもんな……わかる。
「………」
「佐城先輩が嫌そうな顔してます……」
「腹立ちますねこの人……」
我が強く、兄貴最優先の有希ちゃんと居ると厄介事に巻き込まれそうだ。一ノ瀬さんと一緒に笹木さんを接待しながら学校を回るというふわふわムードの幸せな時間を期待してただけにガッカリ感が否めない。あと有希ちゃんが来た瞬間、引率感が増したのは気のせいか……ハッ……! まさか俺も〝引率される側〟って思われてる? だって一人女子大生だもんな? 引率されたい。
「……まぁ、出し物見ながら笹木さんを案内するか。どのみち色んなとこ回るし、あいつもその内見つかるだろ。そもそも見付けたところで
佐々木
が拾ってくれるか分かんねぇし。あっ、有希ちゃんの兄貴の事な」
「拾うとはなんですか。お兄ちゃんなら私と目が合った瞬間、佐城さんの魔の手から救ってくれるはずです」
「置いて行こうかしらん……」
「どうどう……」
半分白目になって呟くと笹木さんが宥めてくれた。馬みたいか……ふむ、悪くない。笹木さんならジョッキーの恰好だって似合いそうだ。愛莉ちゃんに続いて、是非ともお馬さんになって背中に乗ってもらって走れ走れと───鞭で、叩かれる……? ほ、ほう……? ゴクリ……。