Yumemiru Danshi wa Genjitsushugisha RAW - chapter (63)
第二の勧誘
「───佐城さん、とおっしゃるんですね。わぁっ、
鴻越
高校の生徒さんだったんですね!」
「え? ええまぁ。家からも近いし、進学にも使えるとこだったんで」
百聞は一見に如かず。バイト契約に必要だった生徒手帳を見せて身分を証明。俺は怪しいものじゃないのだよ。ほらポロシャツ着てるし。
惚れた女子追い掛けて猛勉強して入ったなんて口が裂けても言えねぇけどな。てか何で俺は光太君を真ん中に三人で座ってんの? 姉貴以上のお姉さんに耐性なんて無いんですけど? まぁ真正面にして話すよりマシか……。
「良いですよね鴻越高校っ! 制服も可愛くて敷地も綺麗だし、大学のキャンパスみたいですよね!」
「そう、なんですかね?」
「そうなんです!」
女子大生の彼女が言うならそうなんだろう、そんな事より母性溢れるお姉さんがキャッキャしてんのがヤバイ。なにそのギャップ、童貞を殺しにかかってるよね。うへへぇ。
話を戻して──うちの学校の中庭は一面芝生が敷かれてるからな……つっても芝生の上に直接座る奴なんて居ないけど。座るとしても基本ベンチだし。
うちの高校を知ってるって事は卒業生なのかな? だとしたらもっと良い場所知ってんじゃないかな……個人的には校舎裏の林っぽいとこを抜けた先の東屋なんて穴場なんじゃね? 今じゃ藍沢と有村先輩の愛の巣だけど。
「光太くんのお姉さん───笹木さんはとても大人っぽいし、大学のキャンパスとか似合いそうですね。芝生の上に座って本を読んでる光景が浮かびます」
「い、いえそんなっ……私は大人っぽくなんてないですよっ」
「いえいえ、笹木さんが大人っぽくないなら周りは子供だらけですよ」
「あ、ありがとうございますっ……そんな事言われたのは初めてです。最近急に背が伸びちゃって……少し前まで本当に子供みたいだったんですよ?」
「はは、想像できないですね」
この謙遜。俺に合わせてくれてるからなのか笹木さんの包容力がただヤバいだけなのか判んないけど、こうして話してるだけで心地好く感じる。喋った言葉全部を素直に受け止めてくれるとか最高かよ。これが〝大人の余裕〟ってやつ? もう褒め言葉しか浮かばないんだけど。
また反対にちょっと余裕無さげに照れてくれるのとかマジで刺激強い。わざとやってたりして……うわぁ、信じたくねぇな。どっちにしたってこの人超モテそう。夏川同様、俺にとっちゃレベル高過ぎて途中で挫折味わっちゃうタイプだわ。あまり接してると俺の寿命が縮みそうだし、今度こそボロが出る前に退散するか。
「───光太君はそろそろ落ち着いた?」
「あ、うん……ありがとうお兄さん」
「次からはああいう声の届かなそうな所はあまり行かないようにな。お姉さんが心配しちゃうから」
「う、うん……ごめんなさい」
「あぁ謝らなくて良いよ。次からな、次から」
過去一番穏やかな声で喋ったわ。たぶん人生で今が一番お兄さんやってる。
愛莉
ちゃんの時とかどうだったよ? お兄さんってか馬だったよな。もはや犬。
お兄さんがてら───〝お兄さんがてら〟って何だ。ついでにこのお姉さんにも注意しとくかね。自覚が有るにしろ無いにしろ、結構目を引いちゃう感じだから。
「笹木さんもお気を付けください。この辺の治安は悪い方じゃないとはいえ、男子高校生の俺にとってもあなたは特に魅力的なので」
「え……ええっ?」
「相手が大人の男の可能性だってありますし、中学生にも体格の大きい奴は居ます。少し回り道してでも、人通りの多い道をオススメします。一般男子の忠告程度に受け取ってくれると嬉しいです」
「は、はい……ありがとうございます……」
「それじゃ、失礼します」
───心地好い。歳上の美女とお互い丁寧に話すのがこんなにも心地好いとは思わなかった。成る程、女性の処世術はこういうところから生まれてんのか。もしかして今ってコミュ障の女子には男以上に生きづらい世の中なのかもな。
◆
早いもんで、バイトを始めて一週間が経った。いつも顔を見てた面子と会わなくなるとやっぱ寂しくなるもんなんだな。自分自身そーゆうとこドライかと思ってたけど、皆こんなもんなんかね……?
早起きが怠いとは言え、たった五時間───下手したら三時間しかないアルバイトに顔を出す程度ならモチベーションなんて無くても「やってやるか」なんて気持ちになる。何なら最近はバイトから帰ってリビングのソファーで昼寝の流れが続いてるから、夜更かししても次の日に差し支えないんだわこれが。
「あ゛ぁ〜……だっる」
受験生の姉貴は夏休みも暦通りの登校。俺も再来年にはこうなるのかと思うと一気にHP削られる気がする。おまけに生徒会もあって塾も行くとか生徒の
鑑
だなおい。今回ばかりは口癖でもなく本気でダルそうだ、あんなイケメン達に囲まれてんのに色っぽい話が無い理由が解る気がする。
「………アンタ、夏休みなのによく早く起きてんよね」
「早起きが金になるからな。たった五時間のバイトは金が出るのに学校は金が出ないんだぜ……? クソだろ」
「アンタクソだね」
「そこのクソ姉弟、汚い言葉で日常会話すんのやめろ」
姉貴と
安穏
じゃない会話をしてると親父から駄目出しされた。朝飯の途中だもんな……親父は今から五時間どころか夜まで仕事に拘束されるってんだから、目の前でこんな会話されたらイラっとすんのも無理ないか。
あまりの多忙さに親父の気持ちを汲んだのか、姉貴はクソと言われども言い返すことはしなかった。何だかんだこの場で一番苦労してんのは親父だろうしな。今の俺が親父の立場だったら間違いなく禿げる。
「古本屋だっけ?そんな楽なん」
「古本屋ってより個人で趣味の経営ってとこがミソだな。やればやるほど仕事が降ってくるチェーン店とは違って、やる事終わったら終わりなんだよ」
「生徒会はチェーン店だったんだね……」
「違ぇだろ」
こっちもだいぶキテんな。話によると夏休みの間に文化祭の準備と並行して中学生の体験入学もあるっつってたか?
なんて言葉を零して見ると、普通に返事をしてくれた。
「あ? ああ……そっちは教師陣が選抜したのが案内とかするってよ。イケメンとか可愛いコとか」
「成る程、それで姉貴は呼ばれなかったわけだな」
「あーはいはい。美女じゃなくて良かった良かった」
おい本当にだいぶキテんな……むしろキメてねぇだろうなこの姉……俺のイジりを流すだなんて……いつもならローリングソバットを放って来てもおかしくないのに……え、何求めてんの俺? ちょっと待てよぉ……姉弟揃ってやべぇじゃん……。
にしてもイケメン美女の選抜と来たか。頭の中でつい最近見た組み合わせが浮かんだけど、文化祭実行委員のついでに頼まれてそうだな。特に夏川。この上なく夏川。は? 佐々木? 誰それ笹木さんなら知ってるけど。
「あー……そういやアンタ、風紀委員に誘われたんだって?」
「んぁ? 何で知って───あぁ……そういや四ノ宮先輩と知り合いなんだっけか」
四ノ宮先輩にとっちゃ姉貴がギャル友なんだよな確か。あれ違う? ホントこの二人マジで何がどうなったら知り合うんだ……? 性格的に絶対に関わり合うような二人じゃないと思うんだけど。
「知り合いってか───んまぁ、そんな感じだけど。それよりアンタらどういう関係? いきなりアンタの調子がどうとか訊かれたんだけど」
「や、別にそんな大した関係じゃ……姉貴の弟的な感じで接して来てると思うけど。実際そう言われたし」
「まぁ別に良いんだけどさ。アンタ風紀委員入んの?」
「無理に決まってんだろ。あの人の居た場所とかどう考えても荷が重いわ」
「じゃあアンタ生徒会入ってよ」
「……は?」
いま何と……? 生徒会?テキトーな委員会どころか生徒会? それこそ荷が重いんだけど。学校のイベント多いし、絶対忙しいだろ。日々やってるらしい事だって小難しい内容ばっか………おかしいな、活発系イケメンの
轟
先輩が遊んでる姿ばっか思い浮かぶんだけど。
「何で」
「凛も言ってたけど、やっぱどこの馬の骨か分からん奴に
後
任せたくねぇんだわ」
レディースの総長かおめぇは。語尾に〝夜露死苦〟が聴こえたわ。急に元ギャルの一面出すし……やっぱストレスがヤバげなんじゃね? アゲアゲまじ卍で行こうぜ。や、だからっつって俺かよ……佐城家の馬の骨ですけどそんな器量はなくてよ?
「アンタ事務系得意じゃんキモい」
「そうなのか?」
「あ」
〝あ〟じゃねぇよ。親父反応しちゃったじゃん。どっちに反応したの? 〝キモい〟の部分ですか……このアマ中学の頃バイトしてたのバラしてねぇだろうな……俺を勧誘したいのか機嫌損ねたいのかどっちなんだよ。てか事務系が得意ってなに? 長所と呼んで良いのそれは。
「生徒会手伝わされてんだよ。最近行ってないけど」
「最近来ないじゃんサボり?」
「そもそも生徒会じゃねぇから俺。あと今夏休み」
「バイト代出たら何か奢ってよ」
「まぁ……別にコンビニアイスぐらいなら」
「待ってろハーゲン」
大変そうだし、まぁ少しくらい優しくしてやるか……なんて思ったそばから
強
か過ぎんだろ何なのこの姉……絶対女に生まれてなくても今と性格変わんねぇじゃんかよ。
「生徒会、割とマジだから。考えといて」
「はぁ? ちょ、姉貴───」
呆れてると、姉貴は無理難題を俺に押し付けて食器を置いたまま二階に上がってった。え? マジなの? 生徒会とか風紀委員以前の問題なんだけど。え? 嘘だよね? そんな感じのやつじゃないじゃん俺。
何がムカつくって、親父が素知らぬ顔で飯食い続けてる事なんだよなぁ……。