Yumemiru Danshi wa Genjitsushugisha RAW - chapter (98)
女神の側で【8】
何とか平常心を取り繕えるくらいまでなったさじょっち。アタシに助けを求めても無駄という事を判断したのか、ノーコメントで愛ちゃんを
愛
でるのに集中し始めたね。さじょっちにとっては愛ちゃんより愛ちの方がヤバいんだと思う。
愛ちはと言うと飲み干した透明のグラスをアタシの分まで回収して入れ直しに行った。そういうのも含めてニヤニヤが止まらない。あとシャッター音も止まらない。
「……おいちょっと」
「ゴメンってっ」
向けているスマホのカメラがウザったくなったのか、ぶすっとした顔で文句を言われた。そう言いつつも寝てる愛ちゃんの背中をポンポンする手は優しいままだ。動画にすりゃ良かったかな……。
「早い寝落ちかと思ったけど、時計見るとそうでもねぇな」
「あ、ホントだ。三時から四時って結構違うよね」
「一気に夕方感増すよな」
そういえば外のカンカン照りがちょっと黄色くなった気がする。日が傾いた証拠かな?愛ちゃんの頬っぺたに当たる光もちょっと変わった気がする。
「その、愛莉起こしてくれる?あまり寝ると夜に寝れなくなっちゃうから」
「ん?ああ」
戻って来た愛ちがさじょっちに愛ちゃんを起こすよう頼んだ。さじょっちは改めて愛ちゃんに意識を向け、揺すり始める。
「ほーら愛莉ちゃーん、起きろー」
「……んぅ………」
「夜眠れなくなっちゃうぞ〜」
「………」
「あれ、これもしかして難しいやつ?」
「かもね」
アタシと顔を見合わせてちょっと困り始めるさじょっち。こんなはずじゃなかったみたいな顔してる。助けを求めるように愛ちに顔を向けると、愛ちは「仕方ないわね……」って苦笑いしながらさじょっちに近寄った。
「ほら、貸して」
「はひ」
愛ちゃんを貰おうとさじょっちの懐に手を潜り込ませる愛ち。何気に凄い接触というか……愛ちゃんが居るだけでこんな事があんだね。こんな時くらいさじょっちも意識しない方が良いと思うけど………さじょっち、顔、顔。
「えふっ」
さじょっちの服を掴む愛ちゃんをぺいっと剥がして抱え直す愛ち。結構強引なんだね……愛ちゃんが可愛い声出したよ。さじょっちがちょっと名残惜しそうにしてるのがまた良い顔というか……何だろ、今日の全てを動画に収めるべきだったような気がする。
愛ちはそのまま愛ちゃんを後ろにあるダイニングテーブルの椅子に座らせた。手すりもあるから危なくない、のかな?
「それ、良いの?」
「この椅子カタいから。そのうち居心地悪くて起き出すと思う」
「愛ち家ならではってやつだね」
「“愛ち家”って何よ」
早くも効果があったのか、愛ちゃんは不満げな声をもらしながら硬い椅子の上でもぞもぞとし始めた。なるほど、アレは確かに自然に起きそうだね。
「愛莉ちゃんが起きたら帰りますかね」
「そだね。寝たままお別れって寂しいし」
「あ……えっと」
さじょっちから切り出すのは意外だったけど、そうじゃなくても良い時間だね。これ以上居ても帰りたくなくなるだけだし、これが今日限りってわけじゃないもんね!
「その……ありがとね、2人とも」
「気にしないでよ!次は泊まって良ーい?」
「い、良いの……?」
「え?うん。寧ろ泊まらせて欲しいな?なんて」
愛ちと愛ちゃんに囲まれて一緒に寝れるとか最高じゃん?寧ろアタシの野望だよね。愛ちはもっとアタシに遠慮しないで良いと思うんだけどな〜、気遣いしぃだから。周りより大人過ぎるとこあるんだよね。アタシらまだJKだよ?
「さじょっちも泊まるー?」
「死ぬ」
「や、死なないから」
そんなになの?愛ちが好きなのは解るけどどーゆー感覚なんだろうね。アタシも一回は経験してみたいかも。いや、そんなすっごい警戒しなくてもそんなわけないから。てか死ぬってなに。
愛ちの家に上がってるってだけで現実味なさそうな顔してるもんね。今日だけで何度もキョドってたし。端から見てたら面白いけど、愛ちが手を伸ばしてんだからもうちょっと良い男になって欲しいなーなんて思ったり。
「まぁ、そだな……愛莉ちゃんのパワフルさに負けそうになったら声かけてくれよ。またおもちゃになってやっから」
「お、おもちゃになんてならなくて良いわよ」
「姉貴で慣れてるから」
「ふッ……何よそれ」
ああっ!?笑った!?愛ちがさじょっちの言葉で笑った。いつもは呆れるだけなのにっ……今も呆れてんだろうけど!何だか珍しい気がする!てかグルチャでも思ったけど、愛ちってさじょっちとさじょっちのお姉さんのやり取り好きだよね。
「───んぅ……おねぇちゃん………」
「お」
「あ!愛ちゃん起きた」
愛ちの言う通り、愛ちゃんはダイニングテーブルの椅子の上で居心地悪そうに
身動
ぎしてる。目が覚めたのか、はっきりと愛ちを呼んだ。
この機は逃さねぇ。
「アタシ、行っきま〜すっ」
「あ!圭!」
眠気眼のまま何も無いとこに手を伸ばして愛ちを探す愛ちゃん。これは可哀想だ、アタシが代わりに安心させてあげないとねっ。
「愛ちゃーんっ!!」
「んぇっ……!?」
勢い良く抱っこだ!めっちゃびっくりしてるね!ちょっと強過ぎたかな……?泣かせないようにしないと!
「アタシだよー!圭ちゃんだよー!」
「おねぇちゃん……」
「もうっ、圭ったら……」
「ほーら高い高ーい!」
「ちょっと、はしゃぎ過ぎよっ」
あり?やり過ぎた?愛ちゃん楽しそうに───あ、ポカンとしてる。ちょっとはしゃぎ過ぎたかな。多分アタシだけ超テンション上がってる感じだよね。だって後半は全く愛ちゃんに構えなかったんだもん……。
「最後にぎゅー」
「んぅ……」
力が入り過ぎない程度に抱き締める。あぁあぁあっ……!これだよコレ!子供の柔らかさってゆーか?抱き心地病み付きになりそうだよ!愛ちゃんが服つかんで来るのが堪らなく可愛い!羨ましかったんだこれ!
「俺がお株を奪ってた感じかね?」
「前はずっとくっ付いてたから……」
「だろうな」
そーだそーだ!さじょっちに愛ちゃんを譲ってあげてたんだよぉーだ!今度からは我慢しないよ!愛ちと愛ちゃん成分を補充し切るまでアタシが独占するんだ!もぉ大好き!
なんて思ってると、さじょっちがふらっと近付いてきて愛ちゃんと目線を合わせた。
「バイバイ、愛莉ちゃん。またいつかな」
「ふぇ……?」
あ、挨拶ね。なーんだ、アタシから愛ちゃんを奪いに来たのかと思ったよ。今更だけどさじょっちって愛ちゃんには愛ちを前にしたときみたいに変なテンションにならないんだね。可愛いのは間違いないと思うけど、そこは愛ちとは違う分別なのかな……?や、愛ちと同じだったらそれはそれでマズいか。
「さじょっち、早くない?」
「……………いやほら、親御さん帰って来たら気まずいだろ」
「ビビり」
「うっせ」
小声で言われた退散しようとする理由は思ったより情けないものだった。愛ちゃんにバイバイ言った時の後ろの愛ちの顔見せてやりたかったよ。ちょっと寂しそうだったし。アタシが帰るときもあんな顔してくれるのかな?
「んぅ、さじょー」
「ん?」
「う〜……」
「またな」
さじょっちに向かって手を伸ばす愛ちゃん。言葉では言わないけど、寂しさを唸り声にして不満を表してるみたいだ。さじょっちはその小っちゃい手と握手して、もう一回挨拶した。愛ちゃんを抱っこしたままじゃ分かんないけど、多分本当に寂しそうな顔をしてるんだと思う。
「そんじゃ夏川、楽しかったよ」
「うん……その、ごめんね?バイト終わりに……」
「いやいや、そんなご大層なもんじゃないから」
「でも、アレよ?バイト先の子とは───」
「あー……うん。“罰”だもんな。今のままだと気まずいし、明日には何とかするわ」
「そう……それなら大丈夫ね」
お互いにフッと笑って労うように挨拶する2人。アタシも愛ちゃんをソファーに下ろして支度する。さじょっちだけ早々と帰るように見えちゃうのは防ぎたいからね。それにアタシもこれ以上居残ったら帰りたくなくなっちゃうから。
さじょっちと合わせて玄関まで移動。愛ちゃんは自分でトコトコ付いてきて、愛ちと手を繋ぎながら見送りしてくれた。このまま持って帰っちゃダメかな?ダメだよねぇ。
「そんじゃ───」
「ぁ……」
「ん?どした?」
玄関戸を開けて出ようとするさじょっち。そこへ愛ちは少し引き留めるように手を伸ばしかけた。振り返りながら進んでたさじょっちは止まって愛ちの引き留めに応えた。
「あっ、その───」
「さじょー!」
「ぉう!?愛莉ちゃん!?」
愛ちの手から離れてさじょっちの脚に飛び付く愛ちゃん。ああもうこれはヤバいね、行かないでってしがみ付いたよ。にしても愛ちに被っちゃったかー……良いとこだったのに。
さじょっち?嬉しいのは解るけど変な顔しない。
「もう……ほら、愛莉」
「う〜」
愛ちは愛ちゃんを拾い上げてあやし始める。わかるわかる、アタシも小さい頃は泊まりに来てた従兄弟の兄貴が帰るときは寂しかったな〜。
「んじゃ、またメッセで?」
「そだね。また話そーよ」
「愛莉ちゃんもな」
「あ……うんっ」
お、今の愛ちへの気遣いはポイント高いね!愛ちゃんが寂しがるのは愛ちだって嫌だろうし。
「ふぃー……んじゃな〜」
「いや何その感じ」
何か軽い感じだね。最後に疲れを吐き出すように息を吐いてさじょっちは出てった。あれは何の息遣いなんだろう……溜め息って事はないよね。まぁお兄さんってゆーかお父さんやってたからねさじょっち。お疲れさん。
………締まらないなぁ。
「───よし!じゃあ次はアタシが飛び付かれる番かな!?」
「え?」