Yumemiru Danshi wa Genjitsushugisha RAW - chapter (22)
暗雲の姉
夏川は好きだけど夏は嫌いだ。虫は出るわ暑いわで良いことなんかない。着込むだけで解決する冬最強だろマジで。何で教室に空調付いてんのにクーラー使わないの?グダるんだけど。
項垂れていると突然俺のポケットが震えた。中のスマホを取り出してこっそり画面を確認すると、そこにはこう表示されていた。
【Kaedeから1件の新着メッセージがあります】
やだ何これ開きたくないんだけど。姉貴からのメッセージ?半年前に肉まん買って来いってパシられて以来じゃないだろうか。嫌な予感しかしない。
大丈夫、今は授業中だ。未読のままスルーしても文句は言われないだろう。特に最近塾なんて通ってる姉貴なら理解を示してくれるに決まって───
【Kaedeから2件の新着メッセージがあります】
スマホ放り投げそうになった。
危
ねぇ、今年既に一回画面割ってるんだよな。またやっちまったらお袋にしょっぴかれる。それだけは絶対に阻止しなければ。
てか何だ、無視すんなってか?仕方ねぇから中身くらい確認してやんよったくしょうがねぇ姉だな全くもう。
【は?おい】
や、何も言ってねぇから。怖すぎんだろ頭に〝ヤ〟の付く方ですか?メッセージ機能って言葉で伝えるもんじゃないの?言外の圧力強すぎるんですけど。
仕方なく画面を下にフリックし、その上の一つ前のメッセージを確認する。
【昼。生徒会室】
いやまぁ呼び出しくらってるんだなってのは解るんだけど……俺何か弱み握られてたっけか?言う事聞かなかったらどうなるんだろう……いやまぁ行くけどさ。【首を洗って待ってろ】っと。
【おっけー。拳
温
めとく】
何でそんな気軽に喧嘩の準備できんの?全く行きたくないんだけど。こんな殺伐とした姉弟他にいんの?そして何であのイケメン四人は姉貴にベッタリなの?弱み握られてないんだよね?
戦慄していると、スマホを握って見つめていた膝元に影が差す。
「さ・じょ・お・くん?」
「申し訳ありませんでした」
「許しません」
まぁ世の中そんな甘くないわな。指名制の課題が積み上がって行く様を見ながら、俺はまた一つ思春期に少年から大人に変わった
◆
生徒会室ってどこだっけ?そんな事を考えながら行ったことない場所をフラフラと歩く。時間は昼と指定されただけ。それなら別に多少遅くなっても構うまい。そんな事を画策していると、視界に何か変なのが映った。
「あのオンナッ……!」
「………」
とある教室の前で窓に
噛
り付いて中を覗き見る女子生徒。見た目は金髪クルクルのド派手な出で立ち。髪を染めている割には自然な髪型である。ギャルっぽさが無いところに好感が持てる。と言っても関わりたいとは思わない、金髪とか無理、目立っちゃうよ。おいちょっと、覗きっぽい事しながら尻振ってんじゃねぇよ俺の目線が釣られちまうだろうが。
そんな不審者の頭上を見上げてギョッとする。扉のところに『生徒会室』と記された札が伸びていた。幾ら何でも運が悪すぎないですかね……。
だが入らなければならない。それが
姉
からの命令───やだ、奴隷根性が染み付いているわっ。
とにかくあのマブい女を突破して生徒会室の中に入らなければならない。何か方法はないだろうかよしこうしよう(即断)。
【生徒会室の前に何か変なのが居て入れないから帰るわ】
チクる。そして俺はこっそり後退していつもの校庭のベンチへと向かう。最強じゃね?あの変な女に関わらなくて良い上に姉貴の呼び出しを断って俺は平穏な昼を取り戻す。ありがとう不審者、グッバイ不審者。
【確保した、面倒くさい。拳は温まっている】
事件簿かよ。積年の恨みを持つ相手を苦労の末に捕らえて復讐を果たす物語を書けそうだ。何にせよメッセージ性が強過ぎる。姉貴め、塾に通い始めて確実に国語力が上がっていやがる……!
そしてお前は逆ハー作ってライバルの女子生徒の恨みを買ってちょっかいかけられる乙女ゲーの主人公かよ。頼むから俺を巻き込むんじゃねぇぞ。大丈夫だ、大抵イケメンじゃない設定の兄弟には何も起こらなかったはず………大丈夫だよね?
【おい、終わったから来い】
処した?処したの?何が終わったんですかお姉さん!対応が迅速過ぎないですかね!
即断即決がモットーの俺。どうやら血は争えなかったらしく、姉貴も同様のようだ。溜め息をついて回れ右し、生徒会室に向かう。さっきまで居た場所に戻ると、生徒会メンバー五人が総出で俺を待ち構えていた。
「お疲れっす」
「殺すぞ」
「おい発言、副会長」
「うるさい」
スタスタと生徒会室の中に戻る姉貴。入り際にオラ中に入れやと顎で煽られた。愚痴るように取り巻きの優男系イケメンの先輩を見上げると、困ったようにハハ……と笑われた。何その綺麗な笑顔、溶かされそうなんですけど。
◆
「で、何で呼んだの」
「秋の文化祭で纏めなきゃいけない資料が多いの。手伝ってよ。猫の手を借りたいとこだったけど仕方無くアンタに頼んだってワケ」
「さり気無く俺を猫以下にすんなよ……他に頼む奴居なかったの」
「アンタ事務系得意でしょ」
「は?」
「バイト。年齢サバ読んでしてたの知ってるんだから」
「は?」
あれは中学時代。あの手この手で夏川愛華をモノにする為に全力を尽くしていた時代。軍資金を手に入れる為にこっそり土日だけのバイトをしていた事があった。驚くほど俺に合っており、受験生になろうとした際に辞めようとしたら時給上げるから辞めないでくれと言われもう半年続けた事があった。結局辞めた原因は受験生なのに土日に外出していた事を両親に責められバレそうになったから。
隠し通していたつもりだった。まさか姉貴がその事を知っているとは思わなんだ。ってか俺弱み握られてたのね……キャインッ。
「何だ何だぁ?楓の弟は不良だったのか?」
「いえ、真面目で勤勉な村人ですよ」
「や、ここ市内だけど」
活発系イケメン───轟先輩だっけ?に返事をしたら優男系イケメンから鋭いツッコミを入れられた。左胸に付けられたネームプレートには“花輪”と───“花輪”!?凄くどっかの誰かとカブってるような気がするぞ!金持ちの匂いがする……!
「べ、ベイビー……」
「うっさいほらこれやって。後で肉まん買ったげるから」
「2個な」
「は?当たり前」
え、そうなの……?
イケメンに囲まれ説明を受けながら手を動かす。心なしか二年生の先輩である秀才系イケメン───甲斐先輩からの扱いが非常に丁重である。この人何で俺に敬語使うんだろう……それがデフォルトなんかな。
K4もっと姉貴にベッタリな感じを見せ付けられると思ったけど、轟先輩を含め皆が真面目に取り組んでいた。姉貴が俺を呼び付けた理由も案外必要に迫られてだったのかもしれない。
菓子パン片手にペンを動かし続けた末、もうすぐ昼が終わる時間になる。
「───ね?言った通りだったっしょ?」
「ああ……確かに。各部からの申請理由に対する反対コメントにはよくスラスラ言葉が思い付くなと思った」
「あ、いや、その……」
クール系イケメン───
結城
先輩が俺を絶賛である。難癖付けるのが得意でして、はい……伊達に姉貴の理不尽を回避して来た訳じゃないんだよ。まぁ今現在こうして回避できず理不尽やってるけども。
「まさか明日からも呼び付けるわけじゃないよな?」
「わかった。エロ本も買ったげるから、デカいやつ」
「デカいやつ」
デカいやつとは如何に。まさか俺の趣味のこと言ってる……?ちょっと待って、だとしたら何で知ってるの怖いんだけど。この人自分の弟のこと
掌握
し過ぎじゃない?え待って、女子って個人単位でこの情報力持ってんの?すげぇなJK、天職スパイだろ絶対。