Yumemiru Danshi wa Genjitsushugisha RAW - chapter (23)
“普通”の恩恵
「明日もよろ」
「わぁったよ」
仕方無く返事をする。決して“デカいやつ”に唆されたわけではない。俺の力を必要とする人達が居るからだ……!その為に俺は仕事をする!(白目)
生徒会室前で別れ、それぞれの学年の教室へと戻って行く。偶然にも二年の秀才系イケメンこと甲斐先輩と方向がカブったから一緒に歩く。生徒会メンバーは全員漏れなく比較的高身長だからあまり隣を歩きたくないんだけど……。
「楓さん、渉さんのこと心配してましたよ」
「……え?」
突然話を振られて肩を竦めてしまう。一拍遅れて内容の突拍子の無さに聴き返してしまった。これは幻聴だろうか、きっと仕事のし過ぎ(30分)で疲れているんだろう。
「『一年生の時期に思い悩むような男子特有なものは在るか』って、変な角度の訊き方をされた時は困ってしまいました」
「絶対に思春期的な何かと思われてるじゃないっすか」
「何の事やらと思いましたが、弟君の事だったとは思いませんでしたよ。後輩に好きな男でも居るのかと思いました」
それであの朝の全員集合か。轟先輩の威嚇っぷりも納得できるな。甲斐先輩が俺と姉貴の関係性を細かく尋ねて来た理由もその確認だったに違いない。さては俺を恋敵だと思ったな?
「『恐らく間に合わなかった、自分のせいかもしれない』とも言っていました」
「ちょっと、人を勝手に終わった奴にしないでくださいよ。俺は別に何も手遅れじゃないっすよ」
「でも、楓さんはそう感じているそうですよ」
「はぁ?何すかそれ……」
思春期的な何か……か。実はそうなのかもしれない。高校生なんて客観的に見てまだまだ子供の内だと思うけど、こうして色々考えてる自分を顧みて『よし子供じゃない』なんて勝手に満足したりしてる。そうやって考え尽くさないと、ある瞬間に思い描く理想と現実の差に不意打ちされて身動きがとれなくなるからだ。
俺は、打ちのめされたんかね。別に絶望なんてしてないし、ただ今までの自分を見て何やってたんだろうって、恥ずかしくなっただけだ。こんな事を考えてる事すら思春期だからなのかもしんねぇな。
ただ、これが姉貴のせいで?いったい何の事だ……?全く心当たりが無いんだけど。
「しかし楓さんが言っていた事は間違っているように思えませんね。確かに、君はどこか諦めたような目をしています」
「そんな還暦越えた俳優みたいな説教言わんでくださいよ」
「楓さんが言うには『アタシ達は目だけは似ているはず』だそうです。ですが、実際に見てみると目すら似ていないので。本当に弟さんかどうか疑ってしまいますよ」
「俺は最初からどこも似てないと思ってましたよ」
小学生の頃、間近で姉の振る舞いを見てよくあんなに友達を沢山作れるなと思ったもんだ。あんなに多くの人と接して疲れないのかと。本人は普通にしてたらこうなってたって当たり前のように言ってたけど……それを聞いて、ああ俺達は姉弟なのにこんなにも似てねぇんだなって思った。
それから深い事は考えずに過ごして夏川に惚れて
幾年
。思春期が色々と思い悩む時期っつーのなら俺の中学時代は夏川の事で頭がいっぱいでそんなものは無かった気がする。いつのまにか夢や理想やらに取り憑かれてたから、深い事を考えたりなんてして来なかったんだ。それが今頃遅れてやって来たのかもしれない。
よく考えたら俺は小学生の頃は小生意気な性格だった気がする。もしかしたら中学生から最近にかけての俺よりよっぽど現実見てたのかもしれねぇな。
「姉貴がまた俺について何か言ったならこう返してやってください。『男らしい目付きになっただけだ』と」
「それはまた。成る程、それなら唯一の似ている点も似なくなるはずですね」
「唯一じゃないですよ、DNAは似てます」
「身も蓋もないですね……」
DNAも似てなかったらどうしよう。もはやそれ親が違ってくるな……もしそうなら俺も姉貴の取り巻きじゃん、絶対に嫌なんだけど。いやいや、きっとつむじの向きとかは同じはず……。
「ま、俺もたぶんデリケートな時期なんですよ。ベッドに置いてたRadioが壊れだす年頃なんです。そっとしておいて欲しいんですが」
「ふふ、でもお姉さんは君を手元に置きたがってますよ。見えるところにおいて、弟である君の変化を見逃したくないのでしょうね」
「その意識を甲斐先輩方に向けたら良いと思いませんか。弟からすればイケメン男子そっちのけでどうかと思いますけど」
「おや、嬉しい事を言ってくれますね。認識を改めましょう」
むしろ今までどんな認識だったのでしょうか。それと姉貴の名前出すたびに一々顔に影作るのやめてくれませんか。優しい口調とは裏腹に怖い迫力があんだよこのイケメンが。たぶん甲斐先輩ってキレたらめっちゃ乱暴な口調になって喧嘩っ早くなるタイプだよな……。絶対に下手な事言うのやめよう。
「では僕はここで」
「はぁ、ではまた」
三階に向かうところで別れる。秀才系イケメンの背中を見送った後に漂うこの空気、何だかちょっと前まで凄く頭の良い会話をしていたのではないかと錯覚してしまうような余韻があった。加えて俺はイケメンと親しげに会話できるんだという謎の優越感。何と比較してそんな気分になってんのかさっぱりわからんけど。やっぱイケメンぱねぇわ。世界のどこかの誰かの何かを救う力があるな(漠然)。
「………おん?」
我がC組の手前まで来たあたりで教室内が賑わっているのがわかった。開けっ放しの入り口から中を覗き、最近では珍しくなくなった光景を見て思わずニッコリ。
……うむ。
教室の真ん中後方、夏川の机を取り囲む複数の男女。少しばかり男子の割合も増えてむむむとなったけど、これが夏川愛華本来のアイドル性なんだと納得する。でももし触るような真似したら許さんからな覚悟しとけよ山崎ィ……!
「わー、これが夏川さんの妹?」
「可愛い!」
どうやら話題は夏川の妹のようだ。夏川はスマホに保存してある写真を皆に見せて照れ臭そうに微笑んでいる。うん、女神。
そういえばいらっしゃいましたねと甲斐先輩っぽく考える。中二の時に3歳だったから、今はもう5歳になんのか。もうすぐ小学生だな、見たことも会ったこともねぇや。だって俺がその事に触れると夏川さん怖い顔すんだもん。
「妹さん可愛くて良いなぁ……ねぇ夏川さん会いに行っちゃダメかな?」
「え、ええっ!?う、うちに……!?」
おおっ……!?あれはほんわか系女子の白井さん!思ったよりグイグイと夏川に迫っている。夏川がしどろもどろになってる感じがグッド。良いぞもっとやれ白井さん!尊い!
夏川の晴れ姿に喜んでいると、前の席だった時と同じ感覚で教室の後ろ側の扉から入ってしまった。結構な人数が夏川の近くに居るから逆に目立ったんだろう、数人の生徒が俺に気付いて、それに加え芦田と夏川とも目が合った。
「あ!さじょっちー!見て見て愛ちの妹ちゃん!可愛いよ!」
「おお、食べちゃいたいくらいだな」
「それはどうかと思うよさじょっち……」
夏川のスマホを持って芦田がわざわざ画像を見せて来た。はぁこれは天使、溜め息もんである。将来的に夏川に匹敵するくらいの美少女になりそうだ。こんな妹が居たら抱き上げるだけで一日の疲れが吹っ飛びそう。
んな事より大丈夫これ……?夏川怒んない?
「今ね今ね!皆で近いうちに愛ちの家に行かないかって話をしてたのー!」
「マジかよ俺レベル足りないんだけど」
「や、夏川さん
家
別にダンジョンじゃねぇから……」
サッカー部の佐々木が呆れたようにツッコミを入れて来た。やるじゃねぇか、え?サッカー部の奴ってそういうゲームとかした事あんの?良いとこウイイレやってるイメージしかないんだけど。それにしても
皆
でですか……。
「大人数で大丈夫なん?」
「ふ、ふんっ……!アンタみたいなのは近付かせないんだから!
愛莉
に悪影響を与えるわけにはいかないもの!」
「ハハッ、だよな」
「ぇ……」
俺だったらあんな可愛い妹が居たら絶対に男は近付かせない。特に山崎と佐々木、テメェらにゃ写真すら見せねぇぞざまぁみろ何言ってんだ俺。
兄弟とかうちは姉貴だけだからな……妹なんて贅沢は言わないから弟が欲しかった(※贅沢)……お兄ちゃんステータスを鍛えれば妹的女子にモテると話を聞いた事がある。や、でもその場合はその子の実の兄という壁を越えなけりゃならないんじゃ……。楽な道なんて無いんだな、そんな度胸無いわ俺。
アホな事を考えてたらこれから何日もあの生徒会室に通わないといけない事を思い出した。考えただけで疲れそうだ……
暫
く大人しくしてよう、レベルどころかHPも足りなくなってしまいそうだ。
「おい。もう昼終わってんぞ席に着け」
「うわ、先生来たよ」
「〝うわ〟とは何だ〝うわ〟とは」
やって来た数学担当の長谷部が教室の中心に固まっている芦田や山崎達に呆れた目を向けている。その蚊帳の外になっているというだけで自分が平穏な場所に居るのだと実感できる。やっぱり隅っこで大人しくしてた方が面倒事は避けられるもんなんだな。
「もうさじょっち!怒られちゃったじゃん!」
「俺のせいにすんなってば」
「………あのさ、さじょっち」
「んー?」
「……ううん、何でもない」
「……?」
よくわからんが面倒な絡みはして来なかった。空気を読めるようになったじゃないか芦田。良いぞ、そのままコーナー系男子にも優しいお茶漬けみたいな奴になってくれ。俺も小栗旬になる(願望)。
夏川については思うように事が進んで気分が良い。空回りしないっつーのは自分が身の丈に合った振る舞いをできてるという証拠だ。手に負えないようなもんは生徒会室前の不審者の件しかり誰かに任せておけば良い。姉貴は妙な心配をしてるみたいだけど、俺はこうする事に何か問題があるようには思えない。
結局、何だかんだ平穏で居られるのは目立たない奴なんだ。