Yumemiru Danshi wa Genjitsushugisha RAW - chapter (91)
女神の側で【1】
愛ちの家に行く。
ニヤニヤが止まらない。部活で疲れた体が悲鳴を上げてるけど全然気にならない。だってこれからそんな疲れも全部吹っ飛ぶもんね!待っててね!愛ちゃん!
直前でスキップを始めて目的地に到着。意気揚々とインターホンを押すと、愛ちの家の中からパタパタと誰かが小走りする音が聴こえた。それと同時に小さな女の子が喜ぶような声がきゃーきゃー響いて来た。間違いない、この声は───
【は、はい!】
「あーいーちー!来ーたーよ〜!」
【え!?ちょ、ちょっと!そんな大声で言わなくて良いから!?】
おっと嬉しすぎて大きな声が。
パタパタと走る音がまた聴こえる。お洒落な門の向こうを見ていると、玄関戸がおぼつかない感じにガチャリと開いた。愛ちかな?愛ちゃんかな?どっちだろ?どっちでも良いや!
「背がたかいおねえちゃんだー!」
「愛ちゃんだー!」
愛ちゃんだった。ツインテールで可愛い。小っちゃい、可愛い、抱き締めたい……!いや抱き締めるッ!!
「愛ちゃんんんん!!!」
「きゃー!」
か、可愛いッ……うちに欲しい!このまま家に持って帰りたい!ダメかな!?ダメかな!?必ず幸せにする自信があるよ!!そしてアタシも幸せになる未来しか見えない!
「ダメに決まってるでしょ!」
「あ、愛ち!この前ぶり!」
「愛莉は渡さないから!」
「や、やだなぁ冗談だって冗談」
パッと奪われる愛ちゃん。渡してたまるもんかと愛ちは愛ちゃんの体を抱き寄せる。さ、さすが愛ちゃんLOVEの愛ち……目が本気だったよ。アタシが睨まれる日が来るとは思わなかった。でもそんなとこが可愛いんだけどねっ!
今日の愛ちは腕出しの白いブラウスに足下が涼しげな黒パンツというスタイル。オシャレだけど……動きやすそうな格好だ。愛ちゃんと遊ぶならそのくらい気合い入れないとダメなのかな?少なくともアタシやさじょっちはあんまり意識してない気がする。
「あはは!愛ち元気ー?元気そうだね!」
「圭の方こそ。部活大変じゃないの?」
「大変だよ〜。だからね、愛ちゃんの元気をもらいに来ちゃったっ」
「そ、それはすごく助かるかも……」
さ、上がって。と家の中に案内してくれる。玄関の中に入っただけでエアコンの冷気が伝わって来る。逆にこんなに涼しくて大丈夫?って訊いたら、愛ちゃん合わせの室温という事が分かった。元気にはしゃぐから直ぐに体温が上がっちゃうらしい。疲れて眠くなったら直ぐに温度調整するとか。ほええ……ちょっと愛ちゃん愛されすぎじゃない?愛ちゃんだけに。
くりくりした目に視線を合わせながら、愛ちに抱かれる愛ちゃんの頭を撫でる。
「よくアタシのこと憶えてたねぇ」
「えへへっ」
「そ、そのっ……!圭の事は忘れて欲しくなかったから……よく一緒に撮った写真見せてて」
「! あ、愛ちぃー!!」
「キャッ!?ちょ、ちょっとっ……急に抱き着かないで」
「あー!?あいりもあいりもー!」
何て嬉しい事を言ってくれるんだろう。愛ちのためなら命を張って死ねる。いっそ愛莉ちゃんみたいに愛ちの妹になりたい。あ!でも愛ちのお姉ちゃんってのもアリかも!寂しくなって甘えてくる愛ち………にひひひ。
ちょっと本気で暑苦しそうにする愛ちに振りほどかれると、気を取り直して愛ちの家の空気を深呼吸する。うへへへへ。ちゃんと挨拶もしないとねっ。
リビングに行くとクリーム色のソファーの前のテーブルにアイスココアが置いてある。ここで遊んでたのかな?テレビを観ながら甘えてくる愛ちゃんをうりうりしてるお母さん的な愛ちという図が頭に浮かぶ。あれ?そういえば、
「愛ち、お母さんは?」
「あ、今日はパートなんだ」
「ほえっ、そうなんだ」
え、ちょっと待って愛ちのお母さん今パートしてんの?じゃあ今アタシが居なかったらこの家には愛ちと愛ちゃんだけって事でしょ?愛ち、そんな状況でさじょっちを罰で誘おうとしてたの?てかもうそれ罰じゃないよね?意中の女子に家に招かれるとか男子にとっちゃもう何かすんごい事なんじゃないの?こう、体が爆発しちゃうくらい。
「……」
「……どうしたの?」
いやコテンって。可愛く首傾げてる場合じゃないよ!お、恐ろしい子やぁっ……!てか男子一人を家に上げるってもう前科あるからね!アタシ聞いた時ホント耳がおかしくなったのかと思ったよ……。しかも今回は親居なかったかもしれないんでしょ?いろんな意味でさじょっち死んじゃうから。
愛ちとさじょっち。この2人は面白い。しかも愛ちは可愛いし。羨ましいって感情より興味が前に来る。もう4ヶ月にもなるけど見ていて全く飽きない。
まあまあの距離感で付かず離れずのこの2人。よく分かんないけど、さじょっちも含めて直ぐに好きになれた。ここまで人の恋愛を間近で見たのは初めてだ。ずっと見ていると自分の青春なんか忘れてしまいそう。
でもこの前のはいただけなかったなぁ……愛ちはさじょっちに冷たく当たるのに慣れちゃって直ぐ強く当たるし、さじょっちは明らかに愛ちを避け始めてたよね。言っとくけどヤバいって思ったのアタシだけじゃないかんね!?さじょっちに至っては他の女子とイチャイチャし始めてたし!
ちょっと疑ったけど何だか違ってるっぽかったのはホッとした。ちょっと感情的になって問い
質
しちゃったけど、さじょっちは“自分はキモい”的な事を言って萎縮しちゃってた。でも愛ちの事は大好きみたいで……何だろう、激しい片想いが落ち着いた感じ?落ち着いてもないと思うんだけど……アタシはちょっとガッカリしたかなぁ。自信満々なさじょっち、好きだったし。いや恋とかじゃなくて人として?
でも、そのおかげでアタシは愛ちとすっごく仲良くなれた。さじょっちが寄り付かなくなって動揺した愛ちはアタシを頼ってくれた。おかげで愛ちが顔だけじゃなくて性格も意外とポンコツで可愛いって知る事ができたんだ。さじょっちの事に関しては焦れったく感じるけど……。
や、ホント。“愛ちとさじょっち”だよ。何なのこの2人、面白くて仕方ないんだけど。これからが楽しみ過ぎるよ。
愛ち、突然さじょっちに距離置かれてプンプンしながらも結構寂しそうなんだよね。今まであんなに鬱陶しがってたのに、急に
天邪鬼
になっちゃって……そこがまた可愛い。シュンとなっちゃって……多分だけど今のアタシの愛ちへの好感度ってさじょっちに匹敵してるよね。うん、そうに決まってる。負けてないねこれは。
愛ちもそれなりに心の整理を付けたんだと思う。“さじょっちが離れて寂しい”っていうのをちゃんと自分で理解してて……最近はちょっと仲良さげでアタシもニコニコしちゃう。
────………そうじゃないんだよねッ!!!
アタシ達高校生だよね!?男女間の友情とか───まぁ、アタシとさじょっちがそんな感じだけどさ!もっと甘酸っぱい感じになるもんじゃないの!?もっとこうっ……あるでしょ!?さじょっちとか
解
ってるぶんガリガリ擦り減らしてるよ!愛ち!キミだよキミぃ!!
「……?」
いやコテンじゃないから!可愛いなぁもおっ!!!
「…………あれっ?そういえばさじょっちは?返事くれた?」
「あ……」
「さじょっちー?」
「さじょっちはね〜……あれ?知らない?」
「いや、圭のあだ名が独特なだけでしょ……」
「そうかなぁ……」
“さじょっち”───語呂が良いと思うんだけどなぁ。呼びやすいし。“愛ち”って呼び方はすぐに気に入ってくれたくせに……誰も一緒に呼んでくれないんだよねぇ。良いじゃん“愛ち”……ぷー。
「愛莉、“さじょー”よ、“さじょー”」
「さじょー……?わかんない」
「え、ええ……?」
わかんないって言われて困っちゃう愛ち。いやいやちょっと待って。
「……さじょっち、愛ちゃんから“さじょー”て呼ばれてんの?」
「そ、そうだったんだけど……憶えてないみたい」
「あらら、忘れちゃったんだね」
「ぐむむっ……」
「……!?」
聴いた!?聴いたアタシ……!?愛ちが頬膨らませて“ぐむむ”だってよ!悔しそうにしちゃってんの何それ可愛いんだけど!さじょっちの事を忘れちゃったのがそんなに悔しかったのかな?うっひゃ〜!
「あ、愛莉!たくさんぶつかった人よ!お相撲さんのおままごとしてくれた人!」
「ねぇそれ詳しく」
「ちょっと黙ってて!」
「あ、うん」
何それ休日のお父さん?愛ち、さじょっちに何させてんだろ……他にも休日のお父さんっぽい事させてたりして。いやもうそれカップルとか越えた先の何かじゃん。中学からの付き合いだからってそんなんなる?
「……? いーんちょ?」
「飯星さんじゃないから!」
「……何かその話知ってるかも」
愛ちゃんの事で
いよりん
がさじょっちに何か怒ってた気がする。身代わりにされたとか何とかで……あ、そういうこと?じゃあさじょっちとの思い出はいよりんに塗り替えられちゃったのかもね。
「んぅー……」
「変な頭の人!」
「それはあんまりだよ愛ち……」
あっれ、サラっとひどい事言うじゃん。さじょっちかわいそ。ちょっと同情しちゃったよ。いくら愛ちゃんでも頭がおかしいかどうかで判断するなんて───
「さじょー……?さじょー!」
「愛ちゃん?」
うっそでしょホントに?さじょっち愛ちゃんの前で何したの?子供に頭おかしい人扱いされるってよっぽどの事だと思うけど。全然想像つかないなぁ。
「わ、渉の髪の色がおかしかったのよ!」
「あっ、ああ……!何だそういうこと!ビックリしちゃったよ!」
た、確かにちょっと前のさじょっちって頭プリン状態だったかも。根元から結構黒くなったままほったらかしだった時ね!あーはいはいやっと理解したよ!てっきり愛ちゃんのダークな一面を見てしまったのかと思ったよ……。
「さじょー!くるの!?」
「くるよー、うん、来させる」
「こ、来させるの?」
「にひひ」
とは言ってもメッセージはさじょっちに投げてる状態だしな〜。まだバイト終わってないのかな?もうお昼は過ぎたけど……。
「愛ち、このままさじょっちが来ても大丈夫?」
「ええっ……!?な、何が!?どこか変……?」
「や、愛ちが良いんなら良いんだよ?」
「え、えっと……!」
きょろきょろしだす愛ち。何か見られて困るものは無いかと今になって探し始めてる。にひひ、可愛いよぉ……何だかさじょっちが妬ましくなって来た。今は目の前の可愛い天使に集中しよっ。
「あーいーちゃーん」
「きゃー!」
うあぁ、ほっぺたやらけぇ……。