Yumemiru Danshi wa Genjitsushugisha RAW - chapter (92)
女神の側で【2】
【お疲れ。何かすごい話になってんな】
「あ……!」
愛ちゃんと愛ち。言葉に表現できないほど可愛い姉妹を独り占めしてると、テーブルの上に置いてたアタシと愛ちのスマホが震えた。近くに居た愛ちがパッと手に取る。内容を見て二人して少し笑った。
「“お疲れ”だって」
「さじょっちも社畜かぁ」
「もう職業病?」
部活もしない同年代の口からはあまり聴かない言葉。愛ちが『えっとえっと』って頭を悩ませてる間に正直な感想を返す。
【さじょっち!高校生同士でお疲れっておかしくない!?バイト根性ってやつ?】
【アンタちゃんとアルバイトしてたんだね】
わお。辛辣。と思って愛ちを見る。ちょっと苦々しい顔をしていた。あらら、自分でもちょっとヒドい事言っちゃったと思ってるみたいだね。そういうとこはアタシと出会った頃のままなんだよねぇ……条件反射で言っちゃうのかな?さじょっちもこんな事言われて機嫌損ねちゃうんじゃ───
【ありがとうございます】
すげぇなコイツ。
いやスゴいよさじょっち。ちょっとキモいけど流石だよ。何が凄いって愛ちの顔だよね。今までに無いほどポカンとしちゃってて可愛い。写真撮って良いかな?さすがに隠し撮りは難しいかぁ……じゃあ正面から!うへへ!あれ、気付かれてない……?
「え、え、なんでお礼言われたの?」
いや、まぁ、うん。
さじょっちはたぶん大真面目に返してるんだろうね。時々えげつない愛ちへの信仰心見せるから。もはや愛ちの罵声なんて“御言葉”だったんじゃないかな……うんやっぱさじょっちには愛ちへの愛で勝てないな。どんな言葉でもご褒美に感じちゃうとかアタシには無理だから。や、多分さじょっちもボケたんだろうけど。
笑いながら『愛ちが返事に困ってるよ』って返すと、愛ちが照れ臭そうにありがとうって言ってくれた。さじょっち?愛ち可愛いんだけどどうする?どうする?今は愛ち独り占めして良いよね?にひひっ。
「あ、そうだ……愛莉」
「ん〜?」
ソファーの上で愛ちとアタシで愛ちゃんを挟んで座ってると、愛ちが面白いことを思い付いたような顔で愛ちゃんにスマホを手渡した。
「“さじょー”だよ、何か言ってあげて?」
「いいのー!?」
マジ?愛ちマジ?何それさじょっち羨まし過ぎるんだけど。そんな事ならアタシもちょっと遅れて行った方が良かったかも。何ならこっちから催促しても愛ちは同じ事してくれたはず……!よし!帰ったら頼んでみよう!
【さじわゃ】
「ん”ん”っ……!」
可愛い過ぎて反射的に何かを我慢する自分が居た。笑いと悶え叫ぶ声が同時に出たらアタシの喉が死ぬ。愛ちゃんの両頬をくしくししたいんだけど。パッて見たらもう愛ちがしてたんだけど。きょ、今日はアタシに譲ってくれるんじゃないの?何なら愛ちにしてあげようか?
【さじょーまだ?】
愛ちも手伝ってあげて送った言葉。さじょっち?まさかこんな可愛いメッセージの正体に気付いてないはずがないよね?
【もう色んなもん持ってくわ】
「え!な、何を……!?」
「えへへ」
言葉から言い表せないような感情を感じる。良いよその調子だよさじょっち、愛ちゃん喜んでる。でも愛ちがめっちゃ動揺しちゃった。申し訳ないのかめっちゃ慌ててるし、これはフォローしとこ。
【愛ちゃんちょっとさじょっち忘れかけてたね(笑)】
【愛莉がぶつかってた人って言ったら飯星さんの名前が出て来たんだけど……】
【うそん】
ガックリするさじょっちの姿が思い浮かぶ。愛ちも同じだったのか、アタシと顔を見合わせて笑っていた。愛ちがさじょっちに遠慮を覚えたのは寧ろ良い傾向だと思う。ちょっと前までさじょっちの変化に付いて行けてなかったからね。や、理由なんか正直アタシも知らないんだけど。でも心変わりしてもおかしくない状況ではあったかも……。
【何て言って思い出したの】
【変な頭だったねって……】
【ありがとうございます】
「え!何で!?」
さじょっち……“ありがとう”の使い方間違えてるから。愛ちめっちゃ困ってんじゃん。“変な頭”って言っちゃった事にせっかく引け目を感じてくれてるんだからもっとプンプン怒れば良いのに。ちゃんと怒ったら愛ちだって聴いてくれるって。むしろそうしないと改めてくんないよ?
「え、えっと……」
「愛ち、さじょっちが馬鹿なだけだから」
「そ、そうなの?」
おのれさじょっち。愛ちの純情を
弄
ぶとはこのアタシが許さん。かくなる上はここに呼び付けた上で“休日のお父さん”の刑に処してやる。愛ちゃんの全力を受けてみるがいい!あれちょっと待ってそれご褒美じゃない?もう愛ちが何してもさじょっち喜んじゃう気がする。
(変態に)選ばれたのはさじょっちでした。
「さじょーまだ〜?」
「えっと、今どこに居るんだろう……」
そうだそうだ!何だかんだ会話してるけどまだ来ないの?愛ちゃんが待ってやってるんだよ!そこは走ってでも来てあげるのがお父さんの役目じゃないの!?お父さんじゃないよ愛ちはアタシの嫁だバカヤロー!!
……待って落ち着こ?愛ちはアタシの嫁。うん、それで愛ちゃんはアタシの妹。これマスト。あれ?落ち着いても結果変わんなかったよ。だって2人とも、いつでもアタシの腕で抱けるし?どうやったら愛ちの子供産めるんだろ……?あれ?アタシの思考ヤバくない?
愛ちゃんは天使。つまり愛ちは女神。ふーん、なるほど?さじょっちが普段言ってることも
解
らなくはないかも?うん、急にまた愛ちゃん抱き締めたくなってきた。ダメ、ホントに愛ちゃん欲しくなって来た。愛ちゃんがダメならいっそ夏川家を芦田家を合併して仲良く───。
「……え………」
「え?」
アタシが愛ちゃんに飛びかか───抱き上げようとしたところで、愛ちから何やら切なげな声が聴こえた。声だけじゃない、スマホを見てるその顔も不安そうな表情になっている。
「え?え?なになにどしたの?」
そんな顔しちゃダメだよ愛ち。てかアタシがさせないぜ!何があったん!
戻って自分のスマホで見てみる。そこにはさっきまでの会話とは打って変わって、さじょっちの遠慮の含まれた言葉が表示されていた。
【俺行った方が良い?】
「は?」
は?アタシの愛ちに対する独占欲という名の想いが逆に通じちゃった?んな訳ないよねていうか本気じゃないもん。さじょっちも来て欲しいし、愛ち、愛ちゃん、さじょっちの三人とワイワイやりたい。来て欲しくないなんて有り得ない。
「……渉、来ないのかな」
「いや来るから。絶対来るから」
愛ちは残念そうに眉を八の字にした。愛ちゃんが愛ちの顔を見て不安そうに手を伸ばしている。その光景に胸がギュッと締め付けられるような感覚になり、大したことじゃないはずなのに割と本気でさじょっちにイラッとする自分が居た。
さじょっち?女神と天使が不安がってんだけど。どうしてくれんの?てか来ないつもりじゃないよね?来るよね?
【え?来てよ何言ってんの】
【あ、うん】
相槌のような返事。いやいやそんなの求めてないから。そんなんじゃなくて来るか来ないかで答えてくんないと。愛ちが不安なままじゃん。
てか何。分かんないかな……この愛ちの“会いたいオーラ”。この前学校で会った時の愛ちのヤバかったよね?あれ見てもそんな感じなの?難しいな、さじょっちってここまで自分に自信無かったんだ……。冷たくされてた時期を知ってるから解らなくはないけど……そこまでなの?少なくともアタシはさじょっち良いと思うんだけどなぁ、一緒に居て面白いし。時々鼻につくけど。
こんなメッセージ上じゃダメだね。言葉に迷っちゃって、愛ちが喋ろうとする時にはたぶんタイミング逃しちゃってるんだよ。やっぱ会って話さないと。そうじゃないとこの2人いつまでもこのまんまなんだよ。
「………迷惑だったのかな」
「さじょっちィッ……!!!」
オウてめぇシャキッと答えろや
いてこます
ぞコラ!!冗談抜きで頭にスパイク打つぞこのやろー!!愛ちに寂しがられてちょっと羨ましいんじゃコラ!!!
【え?来るよね?】
【あ、行く行く。今から行きまーす】
【うんオッケー】
そーだよ最初からそう言えば良いんだよ。何を躊躇ってんのこの男は。大義名分もらって好きな女の子の家に行けるってんだから何も考えず行けば良いのだよ!は?まだ家?何言ってんの?
40秒で支度しな!!!